サブキャラ令嬢ですが、神竜王陛下を溺愛させて幸せエンドにします! ~ヤンデレ親友と同盟して、悲恋ルートを全部へし折ります~
「……あなたときたら……」

 私から事情を聞いたエージュは、深々と溜息をついた。

「ごめんなさい」
「謝ることはなくてよ。苦労するのはアリーですもの。愛しのローランを召喚する為に、ね」

 そう言って、私の髪を撫でてくれた。

「……よく、切り抜けたわ。褒めてあげる」

 それから、カインがエージュに恋をしているっぽいことも報告した。エージュは、「あら、つまらない」と退屈そうに答えた。口説く経験をしてみたかったらしい。

「エージュがカインを口説いてたら、リヒト殿下が鬱陶しいことになりそうだから、ある意味、これでいいのかも。あ、リヒト殿下から、これ、預かり物」
「いらないわ。どうせ王家伝来の宝飾品でしょう?」
「そう言わないで。リヒト殿下には、ちょっと助けてもらったのよ」
「アリーがそう言うなら、受け取ってもいいけれど」

 エージュが銀細工の箱の蓋を開けると、大きな翡翠の指環があった。私達は同時に互いの顔を見つめる。

「……殿下は、殿方が未婚女性に指環を贈ることの意味を、ご理解なさっていないのかしら」
「……舞い上がっているんだと思う」

 私のフォローは、なかなかに苦しい。しかも、自分の瞳と同じ色の宝石の指環となると──その意味は、求婚である。繰り返すが、求愛ではなく、求婚だ。

「わたくし、近親相姦願望はないのだけれど」

 溜息まじりに指環を見つめ、エージュは少し考え込んだ。

「エージュ?」
「この翡翠の魔力は、なかなかのものよね」
「輝石ではないけど、結構強いね」
「……それなら、何かに使えることもあるでしょうし。受け取っておくわ」

 あまり大振りな宝石は好きではないのに、と言いながら、エージュは指環を台座から外した。そして、私の首飾りを見る。今日は王宮行きだったから、正装させられているのだ。

「アリー。その銀鎖(ぎんさ)をもらってもいい?」
「これ?」

 メインの首飾りは、私の瞳と合わせたアクアマリンと真珠だ。輝きが少し足りないので、銀鎖と金鎖を重ねている。

「いいけど」

 私は銀鎖を外そうとしたけど、正装しているということは、つまりコルセットなどで体を締められて、動きが取りづらい。悪戦苦闘しかけた時、エージュの手がふわっと私の首に回る。

「動かないで」

 至近距離からのエージュの美貌、やわらかな声は、いけない方向に進みそうで危ないです。
 私の首から銀鎖をふたつ外して、エージュはそれに指環を通す。そして、体を反転させ、髪をかきあげて白い項を晒した。

「留めて?」
「……エージュ。私を誑し込もうとするのはやめて」
「ふふ。アリーが、リヒト殿下を褒めたりするからよ。少し妬けてしまったの」
「私の本命はローランです」

 全く日に焼けていない真っ白な項にドキドキしながら、エージュに言われた通り、銀鎖を留める。これ、細いから、切れちゃわないかな。

「エージュ。これ、切れちゃいそうよ」
「切れる前に、アリーが新しい鎖をくれればいいわ」
「首飾りを贈るのは、恋人限定でしょ」

 首飾りは求愛で、指環は求婚。謝罪は原石そのままを渡す──どのように加工(しょぶん)されても文句は言いませんという証だ。

「……アリーが殿方だったら、わたくし、絶対に狙ったわよ」
「私が男だったら、そもそもエージュと友達になってないでしょ。たぶん、私がエージュに逆上せあがって、記憶にも留めてもらえてないと思う」
「そんなことはないわ。あなたなら、わたくし、恋している」

 体勢を戻して、エージュは優しく笑った。そして、私の髪を撫でる。

「優しいアリー。ローランを召喚できるオリヴィエを切り捨ててまで、わたくしの名誉を守ってくれた」
「……だって」
「だから、わたくしもあなたの為に何でもするわ。殿下を兄上様と呼んで情報を引き出すくらい、何でもないもの」

 密やかに微笑んだエージュは、魔性の姫君と呼ばれるだけあって、破滅的なほどに美しく魅惑的だ。

「エージュが嫌なことなら、しなくていい。ローランを召喚するよう努力するのは、私の我儘からの結果だもの」
「そうね。わたくしの為という我儘ね」

 頑是ない子供に言い聞かせるような、歌うような口調で告げて、エージュは不意に私を抱き締めた。

「だから、許さないわ。あなたの未来視を侮辱した、オリヴィエ・ステファニアス。──ねえ、アリー。あなたがローランを召喚するなら、ミレイとやらが来るまでは、彼がいなくても困らないわね?」

 ヤバい。エージュが静かにキレている。

「……エージュ」
「リヒト殿下に同意するわ。ええ、腹を立てるのは当然よね。わたくしの大切なアリーを、よくも侮辱してくれたものだわ」

 キレているのがわかるのに、口調は落ち着いたままだから怖い。

「エージュ。私はいいんだってば。それより、私がリヒト殿下の妃の座を狙ってるかもって思われて、未来視を疑われる方が困るわ」
「あなたは祝事ばかりを未来視してあげたのに、ひどい侮辱よ。ええ、確かに未来視は作れるわね、でも、あなたは作りはしなかった。本来起こるべきことを告げただけ」

 エージュの出生に関することは、時系列を変えたけれど、事実を言ったという意味では変わりない。
 オリヴィエが言ったことも、正しくはある。使用人達の噂をまとめ上げれば、結婚や出産はわかる。──死亡も、絞り込める。

 私の記憶しているゲーム年表と、エージュの知識。それを合わせただけで、ゲーム開始から九ヶ月ほど前の現在なら元気な貴族を、「一年以内に亡くなる」と未来視できる。
 ただ、これは私の未来視を「不吉なもの」と忌ませる可能性もあるから、選ばなかった方法だ。

「……オリヴィエとやらが、お馬鹿さんであることを願いたいわ」

 くすっと笑ったエージュは、ひどく酷薄な表情で……私は、思わず彼女に抱きついていた。

「アリー? どうしたの?」
「駄目。エージュは、いつもみたいに綺麗に笑ってくれなきゃ駄目。そんな風に、歪んじゃ駄目」
「……アリー」
「さっきのエージュも、すごく綺麗だけど。闇堕ちはよくない。駄目」

 そう繰り返す私に根負けしたように、エージュはそっと私を抱き返してくれた。

「私達は一蓮托生よ。エージュが闇堕ちしたら、私も堕ちちゃうじゃない」
「闇堕ちとやらの意味はよくわからないけれど。……あなたが嫌なことはしないわ」

 あなたの見えるところでは。

 ──そんな、微かな声が聞こえた。
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