サブキャラ令嬢ですが、神竜王陛下を溺愛させて幸せエンドにします! ~ヤンデレ親友と同盟して、悲恋ルートを全部へし折ります~
「悪役令嬢というものが、どういうものなのかわたくし、わからないのだけど」
「とりあえず敵役。ライバル。私がやってたゲームにはいなかったけど……あ、むしろエージュがその立ち位置?」
ヒロインから攻略キャラをかっ攫うという意味では、エージュは悪役令嬢だ。
「いやよ、そんな面倒。アリーが頑張ってちょうだい」
一言で拒絶するエージュ。干物女子には、美形だらけの逆ハー状態すら鬱陶しいものらしい。
「でもね、私が狙ってるのはローランだけだからね。リヒトもシルヴィスもいらないし」
「他はいないの?」
エージュの問いに、私はすらすらと答える。伊達に二桁回数プレイしてないのだ。
「他は、剣一本で成り上がったぜ!っていうおっさん枠のカイン・シュラウス、三十一歳。それから、竜オタクの神官、オリヴィエ・ステファニアス、二十五歳」
「あら。シュラウス将軍も対象なの?」
「エージュ、お気に入り?」
「気に入っているというか。わたくしに対しても普通に接して下さったから、覚えているの」
ちなみに、エージュにのぼせあがった男達のことは、全く覚えていないそうである。
「なら、カインはエージュ用に残しとく?」
「そうねえ……王女になってしまうなら、尼僧になるのは無理よね。保険として、シュラウス将軍は頂きたいわ」
「了解。それで、ローランなんだけど。確か、ミレイが来る半年前に召喚されるから、今から半年くらい先に召喚されると思うのよ」
カインの未来を勝手に仮定させてもらって、私は本題に入る。目指すはローランのみ。他は王太子だろうと宰相の跡取りだろうと、私にとっては雑魚だ。
特に後者は、従弟に友愛スレスレの愛情を抱いていると公式発表され、「華寵封月」に腐女子ファンを釣り上げた傑物だ。NL派の私としては、関わりたくない。
「ローランを召喚するのがオリヴィエなのね?」
「そう。だからローランの好感度を上げるには、オリヴィエと仲良くせざるを得ないのよ。でも、仲良くし過ぎるとオリヴィエとの恋愛ルートに入っちゃうの」
その辺の加減が難しいのだ。何度、オリヴィエの好感度を上げすぎて恋愛イベントが発生してしまい、「やっちまった」とセーブデータをロードしたことか……。
「とりあえずは、その神官と仲良くなることから始めたら? あまりに好感度が上がり過ぎたら、わたくしが手伝ってあげる」
「エージュ……!」
つまり、その魔性の美貌で誑し込んでくれるということだ。竜オタクとはいえオリヴィエも男。ヒロインであるミレイと結ばれるEDがあるし、エージュによってすれ違いが生まれる展開もある。
「ありがとう」
「代わりに、何としても神竜を誑し込むのよ。悲恋は許さないわ。わたくしに、神竜に伝わるという秘文書を読ませてちょうだい」
「うん。努力する。……ただねえ、ローランは神竜の王で戦いでは最強なんだけど、普段は人見知りっていうか……で、なかなか会話できないのよ」
「その為にも、オリヴィエとやらと仲良くなっておきなさいな」
「公爵令嬢と神官の接点がないのよ。ゲームだと、隣国からの宣戦布告を受けて、オリヴィエがローランを召喚したらしいんだけど」
そう説明した私に、エージュは簡単なことよと言ってのけた。
「あなたが、未来を予知すればいいのよ。ゲームの知識はあるんでしょう?」
「完璧です」
「なら、それを元に、ミレイとやらが来るまでに確実に起こることを予知なさいな。最初は小さなことでいいわ。少しずつ、ラウエンシュタイン家の令嬢は未来視ができると知られていくように」
ミレイが来てからのことは、予知しなくていいとエージュは言った。ミレイの動き次第で展開は変わるのだから、予知が当たるとは限らない為だ。私もそれに賛成。
「わたくしが庶出の王女だということは、リヒト殿下のるーとというものでないと公表されないの?」
「ううん。エージュのことは共通イベント──全員に起こる展開よ」
「それなら、まずは……そうね、来週のあなたのお母様のお茶会にわたくしも招かれているわ。その時に、そんな夢を見た、あまりのことに驚いてしまって寝ついたのだと、わたくしに話しかけなさい。わたくしだけに話そうとして、でも興奮してしまって声を抑えきれないといった演技で、周りに漏れ聞こえるように」
なかなかに難しい要求だ。だけどやるしかない。何度やっても見つからなかったローランの幸せEDを迎える為に!
「わたくしは、それを一笑に付すわ。その後、お父様にそうお話しする。後は、お父様が陛下にどう働きかけるかだけれど──全員に共通して起こる出来事なら、間違いなく、お父様はわたくしを売るわ」
自分は(育ての)父に売られると言い切ったエージュは、さっきの涙で全部吹っ切れたという風に、平坦な声で話している。だけど私の手を握ったままだ。私も、エージュの白い手をぎゅっと握り返す。
「その後──そうね、次の宮廷での晩餐会で、シュラウス将軍に、戦の気配はありませんか、何だかとても恐ろしい予感がしますと話しかけなさいな。将軍がどう答えるかわからないから、その先はあなたに任せるけれど、とにかく「近々戦が起こる予感がする」とあなたが感じていることを印象づけるのよ」
「うん。匂わせる程度でいいのね?」
「ええ。確信はない、という風にしておくのがいいわ。でないと、知らないことを訊かれた時に逃げられないから。……今はそこまでにしましょう。アリー、あなたが覚えている限りの、ミレイとやらが来るまでの出来事を書き出しておいてちょうだい。それを見て、また考えるわ」
エージュという参謀を得たことは、私にとって幸運だと思う。無意識に「この世界のことは何でも知ってる」と私が過信しないよう、適切にストップをかけてくれている。
「それで? あなたがご執心のローランというのは、どんな竜なの?」
「シスコンとマザコンとおっさんとオタクが揃ってる中で、ローランだけは癒し系だったのよ……」
神竜の中でも最強の神竜王・バハムートの異名を許された、白銀の竜。人型を取ると、蒼みを帯びた銀髪と、光の加減で色を変えるアレキサンドライトな瞳、周囲を圧倒する神竜のオーラを放つくせに、人見知りで控えめ。戦場では炎と冷気のブレス、招雷やらで大活躍するけれど、宮廷に戻ると神官のオリヴィエかヒロイン以外とは話そうとしない、やや引きこもりな神竜だ。
最後、神竜王として一族を捨てられないローランと、同じく元の世界を捨てられないミレイが、向かい合って、真っ直ぐに前を見つめたまま互いの未来を模した光へと進み、すれ違う瞬間に立ち止まって「この一瞬だけ、私は王であることを忘れる」ってキスした後、そのまま消えるのよね。まさかあれが正EDだとは思わなくて、何周プレイしたかわからないわ。
「……熱のこもった説明をありがとう。他の方々は?」
私の熱いローラン語りに、エージュがやや引いている。まあね、この会話は萌え仲間でないとついてこられないのはわかってる。
「リヒトはシスコン化してエージュエージュになる。それにミレイが「もうやってらんないから私帰る」ってキレたところから「本当に必要なのは君だと気づいた」な展開。
シルヴィスは、リヒトリヒトだったところにリヒトがシスコン化したことでエージュに嫉妬して、思いつめてエージュ暗殺を企てたことをミレイに止められて、「どうして私の計画に気づいた……?」「だって、わたしはずっとあなたを見ていたもの。あなたが他の誰を見ていても」から「おまえは私だけの女神!」なヤンデレになる」
「救いようがないわね」
冷ややかな感想です。同意です。だから私はシルヴィスのルートは二回しかやってないのよ。二回やった理由は、スチルの取り忘れだ。差分けスチルはね、取り損ねるとつらいのよ……。差分けも回収しないと、コンプスチルは開かないし。
「カインはマシかなあ。将軍っていう地位にはあるけど身分はない俺は、女神という地位にあるけど身分のないおまえとは同じだなって、気さくに接してくれる。最初はミレイはリヒトに惹かれてて、でも身分違いだし……とカインに相談しては慰められたり励まされたり、の繰り返し。そんな時に、エージュがリヒトの妹だって公表されて、国王陛下がカインにエージュを娶って正式に貴族にならないかって誘うの。それを聞いて、ミレイは初めて「わたし……カインさんのこと……」ってなる」
「わかったわ。そのるーととやらのミレイという子は、馬鹿なのね」
「カインはカインで、年齢差もあるし、エージュとの結婚は断るの。けど、この時はエージュが乗り気」
「わたくしが?」
どうして、と言いたげに首を傾げたエージュに、私は理由を説明した。カインは将軍だ。成り上がりだから、正規軍を任されていないかと言えばそうではない。彼の指揮する軍は精鋭で、志願兵揃い。その中にシェーンベルク大公がいる。王家に次ぐ、古い血筋を誇る超名家の当主が。そしてシェーンベルク大公は、カインに心酔しているのだ。
「……ローゼンヴァルト宮の蔵書室に入れる……」
悪くないわね、むしろお願いしたいわとエージュは呟き──私ににっこり微笑みかけた。
「わたくし、シュラウス将軍と結婚したくなったわ。その協力はお願いしていいのよね、アリー?」
「はい」
そしてカインは、二年後くらいに超美少女のお嫁さんを迎えることが私達の中で仮定から決定に変更された。決定です。権力財力にモノを言わせて、ミレイからローランだけでなくカイン将軍もいただきます。これでエージュも立派な悪役令嬢予定だ。
「オリヴィエは、イルディシア伯爵家の三男だけど魔力に秀でてたから神官になった設定だった。カインと仲が良いのよ。カインの弟が神殿勤めなんだけど、その弟の失態をフォローしてあげたことがあって、カインが傭兵時代に戦場で拾ってた輝石をもらうの。それで、隣国との開戦が避けられない、となった時に、その輝石を使って神竜を召喚したら、何故か実力以上の力が発揮されて、神竜の王であるローランを呼べちゃうの」
「理由は?」
「ローランが、「女神」とされるミレイの召喚を予知して、ミレイを守る為に自分も召喚されたの」
ミレイは古の女神の生まれ変わりで、ローランはその女神の最愛の恋人だった神竜の転生。なのに、ゲームではどうやっても結ばれなかったのよ……!
「ミレイとローランが結ばれないなら、好都合でしょう。ローランは、あなたと結ばれる為にミレイとは悲恋で終わったのよ。そう思いなさい」
強い。エージュ、強い。
「リヒト殿下とシルヴィス様とオリヴィエは、ミレイという女神サマに引き取っていただきましょう。わたくし達は、それぞれの相手と恋をしましょう」
私はローランが好きだけど、エージュはカインじゃなくて、カインに付属するシェーンベルク大公の蔵書室が好きなだけでは……。
「フラグとやらの管理も必要になりそうね。ふふ、アリー、わたくし、何だか楽しみになってきたわ」
そう微笑むエージュは、どこから見ても儚げでたおやかで可憐な花の妖精だけれど、中身は完璧に、私以上に悪役令嬢に変化していた。「華寵封月」には、悪役令嬢はいないんだけどね……。