サブキャラ令嬢ですが、神竜王陛下を溺愛させて幸せエンドにします! ~ヤンデレ親友と同盟して、悲恋ルートを全部へし折ります~
「ところで、シュラウス将軍とはどうなっているの?」
「戦が起こりそうで怖い、って話した時のことは報告してなかったっけ」
「されてなくてよ。もう、アリー。報告・連絡・相談は基本なのだから、疎かにしないで」

 軽く窘められて、私はエージュに謝った。カインにはなかなか会う機会がなかった。宮中晩餐会では席次の違いで全く接触のチャンスがなく、仕方ないので比較的自由に動ける舞踏会を待った。
 その舞踏会があったのは先々週のことだ。既に未来視の力を噂され始めていた私は、たくさんの令嬢や奥方に囲まれて動きづらかった。人に酔ったと逃げたバルコニーに、同じく人ごみを避けていたカインがいた。以下、再現します。



 ──将軍様……?
 ──おお、これは未来視の姫。如何なされた?
 ──少し、人に酔ってしまいましたので、外の空気をと思って……
 ──それでは、このようなむくつけき男がお傍にいてはなりませんな。すぐに失礼致しましょう。
 ──お待ち下さいませ。私、将軍様に……シュラウス閣下にお伺いしたいことがありますの。
 ──俺……私に?
 ──はい。……隣国……シルハークの新王は、好戦的だと聞いています。そのことで。
 ──ラウエンシュタイン公爵令嬢は、その新王の即位を言い当てられた。まさか、兄王子を弑して即位するとは……。
 ──今は、北方の#商人同盟__ギルド__#を攻めていると聞きます。……私、視えてしまいましたの。シルハークは商人同盟を屈服させ、形だけの独立を認めて支配下に置きます。その後、商人同盟からの「献上金」を元に、ヴェルスブルクに──
 ──攻め入ると?
 ──はっきりとは申せません。でも、少なくとも一年以内には……そうなってしまいそうで、私、怖くて……このようなこと、迂闊には申せません。どなたかに杞憂だと叱っていただきたくて。
 ──姫。お名前は……アレクシア姫でしたな。
 ──はい。
 ──ならば、アレクシア姫。その杞憂は、杞憂ではないとしか申せません。軍務に関わることですから、詳細は明かせませんが……陛下、あるいは宰相閣下にご相談すべきか迷っておりました。だが、姫のお言葉で心が定まりました。
 ──将軍様。私は、ただ不安なだけです。戦になどならぬと、そうおっしゃっていただきたくて……
 ──それが不可能なことは、姫御自身がおわかりのはず。急ぎ、陛下に奏上致します。御無礼を。




 以上、再現終わります。魔力を注いだ白い紙に私とカインの名前を書いて、台詞を書くと、二頭身くらいのデフォルメされた人形になって、その台詞を読み上げてくれた。

「……どうかな?」
「及第点ね。あなたが戦が起こりそうで不安を感じていることを印象づけたし、陛下への奏上にも繋げている。……だけど、それなら疑問が残るのよ」
「何?」
「何故、陛下も宰相閣下も、あなたを召してこのことを確かめないのか、ということよ」

 言われてみれば、確かにそうだ。開戦かもしれないという一大事なのに。

「……まだ、あなたの予知能力を疑っているのかしら。それなら、次の手を打つわ」

 流れる銀の髪を緩く払って、エージュはトントンと年表を叩いた。

「何をすればいいの?」
「時系列を狂わせる」

 そう言うと、女神もかくやという微笑みを浮かべた。

「わたくしが陛下のご落胤だという噂──三月でかなり広まったわ。でも、お父様と陛下との妥協ができていないの。元々、その交渉に一年はかかるだろうと思ったから、あなたに予知してもらったのだけれど」

 爵位の引き上げ──しかも、王族でもある大公家は別にして、最高位の「公爵」に叙すには、それなりの理由がいる。落胤である王女を養育したというだけでは、戦や「女神」ことミレイや、神竜の召喚でゴタゴタしている時ならともかく、表向きは平和な今は、難しい。

「今日、ラウエンシュタインの屋敷に帰ったら、公爵夫人に申し上げなさい。「エージュが死ぬ予知を見た」と」
「エージュ!?」
「わたくし、明日、自殺未遂をするわ」

 ──エージュの「親友」であるアレクシアが口にした「エージュは陛下のご落胤という夢」は、アレクシアが「未来視の姫」と名高くなったことで、やはり真実ではないかという声は高くなっている。公式には国王陛下もバシュラール侯爵も、そのことには一切触れていない。

 そして、自分は母の姦通の結果の子なのかと不安になったエージュは、「今日」、屋敷を訪れた私に、未来視を懇願する。エージュを傷つけまいと頑なに拒む私を泣き落として、結局、「同じ結果しか見えない」と言われる。
 親友を見送った後、エージュは父に真偽を問い質す。

「ここで、お父様が認めれば話は違うけれど、まだ陛下との交渉が終わっていない以上、お父様は否定なさるわ。わたくしのこの薄い色彩は、偶々だとね」

 自室に戻ったエージュは、魔力のすべてを注ぎ込んで「神問い」を行い──自分の出生を知り、国王陛下がそれを認めない以上、「父」であるバシュラール侯爵を裏切ることはできないと、自殺を図る。
 同時に、私が「エージュの身に何かあった!」とラウエンシュタインの屋敷で両親に泣きつく。公爵家からの火急の使いに驚いたバシュラール侯爵がエージュの部屋に行くと、毒を仰いだエージュが倒れている──という筋書きだ。

「待って、それってエージュが危険すぎるじゃない」
「致死量は飲まないわ。飲んだと見えるように細工はするけれど」
「……なら、ラウエンシュタインからの使いは、私が直接来るようにする。私なら、この輝石に貯めてる魔力で、回復魔法を最高レベルで使えるから、エージュを完全に解毒してあげられる」

 そう言った私に、エージュは大丈夫よと笑った。

「輝石の魔力は、必要な時の為に──……」
「エージュの命が懸ってる。何より必要な時よ」

 ローランも大事だけど、エージュも大事なのよ。ローランの召喚は、本来ならオリヴィエの魔力だけでもできるんだから、ここで輝石の魔力を使い果たしたって構わない。恩を売るのは別の方法でもいいのだ。

「エージュを失くすのは絶対に嫌。危険に晒すのも嫌」
「……そうね。自殺を図ったのは、あなたがわたくしを不安にさせたからだと非難させない為にも、その方がいいかもしれないわね。わたくしとあなたには同情が集まり、批判は国王陛下とお父様だけに向かうようにしなくては」
「私には、同情は集まらなくていいわよ」

 私の言葉に、エージュは首を振った。

「駄目よ。まだわかっていないわね、アリー。宮廷やこの社交界で一番恐ろしいのは、そういう声なき声よ」

 その声には、うんざりした響きと、微かな恐れがあった。──魔性の女と言われることに、エージュは傷ついていないわけじゃない。

「時間を合わせましょう。お父様とのお話がいつ終わるかわからないから……そうね、わたくしが毒を仰ぐのは、今夜0時ちょうど」
「その直後に、私はお父様とお母様の寝室に駆け込めばいいのね」
「……駆け込む前に、ノックはするのよ」

 仲良くなさっている最中だったら困るから。
 さらりと言われて、赤面する。う、うん、お父様とお母様もまだお若いしね、その可能性はなくはないわね。

「そんなことにならないように、今夜は何だか怖いとか理由を付けて、公爵夫人に一緒に休んでもらってもいいわね」
「採用」

 お母様は私に甘い。お父様も甘いけれど。

「眠ったフリをして、0時になったら飛び起きる。エージュに何かあった、って」
「できるだけ急いで来てね。毒は……お約束だし、使用例も多いことだし、カンタレラを使うわ」

 ……どうしてそんな毒を持っているのかは、訊かない方がいいのかな……。

「古文書に調合方法が載っていたのよ」

 私の言葉にしない疑問にあっさり答えて、「だから古書を読むのはやめられないわ」と呟いたエージュは、悪役令嬢を通り越して、悪役魔女になりそうです。
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