彼女の季節を戻したい
少し吹っ切れる彼女
涙だった。
葵が、涙を流している。
「ひっく……お父さん……」
お父さん?
「あらあら。葵ちゃん、ようやく気を抜けたんだねえ。
……冬青くん、ちょっとそっとしてやってくれないかい?」
「いいですけど……」
理由が、気になる。
「時間があるなら、おばちゃんと少し話さないかい?」
すると、おばちゃんが誘ってくれた。
理由、教えてくれるのかな。
そう思って、話すことにした。
おばちゃんは葵の背をさすりながら話し始める。
「葵ちゃん、冬青くんに教えてもいいかい?」
葵は、弱々しく頷いた。
「ありがとうねえ。……葵ちゃんはね、シングルファザーの家庭で過ごしていたんだ。冬青もそれが大変なのは分かるだろう?」
「はい」
シングルファザーか……
もしかして、だから「お父さん」と呟いたのだろうか?
「さっきのもきっとお父さんを思い出したんだろうねぇ」
やっぱり……
「まあそこはいいんだけど。葵ちゃんは横浜に住んでいたから、こんな田舎と違っていろいろかかるお金が高くてねえ、男ではあったとはいえ、かなりカツカツの生活だったらしい」
「そうなんですね」
……。
考えさせられるなぁ。
「ただ、お父さんはその生活が無理になってしまったみたいでね、自殺してしまったんだよ」
「そうさ。葵ちゃんはとうとう親なき子になってしまって、だからあたしが引き取ったんだ」
「そうなんですね」
葵も、あんなに明るくてもこんなにつらい生活をしていたんだな……
「実を言うと葵ちゃんを引き取ったのも、不憫に思ったからだよ。不憫、なんて言ったら怒られるかもしれないけどねえ。」
「ううん……千春おばさんならいいよ……」
「ありがとう、葵ちゃん。だけど、実際はね、会ってみたら普通に気に入ったさ。けれどねぇ……」
と、そこでおばちゃんは言葉を切った。
「強がっているように見えたのさ。なんだか気丈に振る舞っているように見えた……そう感じてね……そこが少し心配だった。」
気丈に振る舞っている、か。
確かに、今までこんな暗い事情があったなんて分からないくらいには気丈`に振る舞っていたのかもしれないな。
違和感を今まで持たなかったのは、葵の演技が上手かったということだろうけど……
騙されたしまったことに、少し、悔しさを抱いた。
「だけど、葵はようやく泣けた。気を抜くことが出来た。だから、きっと大丈夫さ。だから……ありがとうね、冬青くん」
――いえいえ
そう言おうとした言葉は、
「ありがとう……」
葵の感謝の声を前に、僕の口から出ることはなかった。