人質令嬢、第二王子と国家反逆を狙う
息を荒くしながら、モルドレッド殿下がこちらへ下がってきた。
……少し、“鼓舞”を重ねすぎたらしい。
「襲い掛かってきた兵士たち、国王陛下の護衛騎士や王国軍の所属兵がかなり混ざっております。殲滅するわけにはまいりませんわ」
「ほんとに? いや、ほんとだ」
殿下は額の汗を乱暴に拭いながら、周囲を見回した。
「殿下の“調和”で中和してください」
「俺、こんな大人数相手に一気にやったことないんだけど!? ……いや、んなこと言ってる場合じゃねえか」
「大丈夫ですわ、殿下」
私はにこりと微笑み、左手をそっと殿下の背中へ当てた。
「うまくいくまで、何度でも“鼓舞”して差し上げますわ」
殿下は心底嫌そうな顔で私を見た。
「もうちょっと優しく言ってくれ。俺は褒められて伸びるタイプなんだ」
「獅子は我が子を千尋の谷から突き落とすものです。さあ、殿下」
「王家の紋章、あれ獅子じゃなくてドラゴンなんだぜ……」
軽口を叩いているうちに落ち着いてきたのか、殿下は手にしていた剣を鞘へ戻した。
そのまま殿下は、何度か手を握って開き、それから顔を上げてアーサー殿下をまっすぐ見上げた。
「兄上にできるんなら、俺にだってできるだろ」
「そのとおりです、殿下」
私も笑みを浮かべたまま、アーサー殿下を見上げた。
剣劇の向こうの玉座の前。兵士に負けず劣らずの顔色で、アーサー殿下はモルドレッド殿下だけを見つめていた。
「戦況は?」
近くで守ってくれていた兵士に声をかけた。
「守るだけなら問題ありませんけど、攻めきれてませんね」
「さすがです」
兵士は苦笑を浮かべたまま、切りかかってきた騎士を盾で力強く弾き飛ばした。
攻め切ってはいけないとわかって戦ってくれているだけで十分ありがたい。
「殿下、やれそうですか? 殿下の兵たちは頑張ってくれてますよ」
「そこでプレッシャー追加しないでくれよ。やれる。やりますよ。なにしろ俺はヴォーティガン辺境伯ご令嬢の夫になる男だからね」
モルドレッド殿下がそう笑った瞬間、ふわりと甘い香りが広がった。
さきほどまでのような、どろりとした濃密な香りではない。
騎士が突進してきたのを、近くの兵士が盾で弾く。
別の方から切りかかってきた剣は私が剣で振り払った。
甘さの奥に柑橘を思わせる爽やかさを含んだ香りが、あたり一面へ広がっていく。
顔を上げると、アーサー殿下が唇を噛み締めたまま、こちらを見下ろしていた。
モルドレッド殿下もまっすぐにアーサー殿下を見上げている。
やがて剣劇が止み、張りつめていた玉座の間が不気味なほど静まり返った。
……少し、“鼓舞”を重ねすぎたらしい。
「襲い掛かってきた兵士たち、国王陛下の護衛騎士や王国軍の所属兵がかなり混ざっております。殲滅するわけにはまいりませんわ」
「ほんとに? いや、ほんとだ」
殿下は額の汗を乱暴に拭いながら、周囲を見回した。
「殿下の“調和”で中和してください」
「俺、こんな大人数相手に一気にやったことないんだけど!? ……いや、んなこと言ってる場合じゃねえか」
「大丈夫ですわ、殿下」
私はにこりと微笑み、左手をそっと殿下の背中へ当てた。
「うまくいくまで、何度でも“鼓舞”して差し上げますわ」
殿下は心底嫌そうな顔で私を見た。
「もうちょっと優しく言ってくれ。俺は褒められて伸びるタイプなんだ」
「獅子は我が子を千尋の谷から突き落とすものです。さあ、殿下」
「王家の紋章、あれ獅子じゃなくてドラゴンなんだぜ……」
軽口を叩いているうちに落ち着いてきたのか、殿下は手にしていた剣を鞘へ戻した。
そのまま殿下は、何度か手を握って開き、それから顔を上げてアーサー殿下をまっすぐ見上げた。
「兄上にできるんなら、俺にだってできるだろ」
「そのとおりです、殿下」
私も笑みを浮かべたまま、アーサー殿下を見上げた。
剣劇の向こうの玉座の前。兵士に負けず劣らずの顔色で、アーサー殿下はモルドレッド殿下だけを見つめていた。
「戦況は?」
近くで守ってくれていた兵士に声をかけた。
「守るだけなら問題ありませんけど、攻めきれてませんね」
「さすがです」
兵士は苦笑を浮かべたまま、切りかかってきた騎士を盾で力強く弾き飛ばした。
攻め切ってはいけないとわかって戦ってくれているだけで十分ありがたい。
「殿下、やれそうですか? 殿下の兵たちは頑張ってくれてますよ」
「そこでプレッシャー追加しないでくれよ。やれる。やりますよ。なにしろ俺はヴォーティガン辺境伯ご令嬢の夫になる男だからね」
モルドレッド殿下がそう笑った瞬間、ふわりと甘い香りが広がった。
さきほどまでのような、どろりとした濃密な香りではない。
騎士が突進してきたのを、近くの兵士が盾で弾く。
別の方から切りかかってきた剣は私が剣で振り払った。
甘さの奥に柑橘を思わせる爽やかさを含んだ香りが、あたり一面へ広がっていく。
顔を上げると、アーサー殿下が唇を噛み締めたまま、こちらを見下ろしていた。
モルドレッド殿下もまっすぐにアーサー殿下を見上げている。
やがて剣劇が止み、張りつめていた玉座の間が不気味なほど静まり返った。