人質令嬢、第二王子と国家反逆を狙う
28.勝鬨を上げる責任
モルドレッド殿下は、静まり返った玉座の間をまっすぐアーサー殿下へ向かって歩いていった。
途中で離宮の兵士へ声をかけ、拘束用のロープを持ってこさせる。
アーサー殿下は諦めたような笑顔で両手を差し出した。
差し出された手首を背中側でロープに縛りながら、モルドレッド殿下は小さくつぶやいた。
「こんなことしなくたって、兄上は立派な王になれるお方なのに」
ひどく小さな声だったはずなのに、静まり返った室内では妙にはっきり響いて聞こえた。
「そう言ってくれるのは、たぶんお前だけだよ」
アーサー殿下が、自嘲するように小さくつぶやいた。
そんなことはない。けれど、それを私が口にするのも違う気がして、黙っていた。
***
室内を見回す。
離宮の兵士たちは肩で荒く息をしながらも、剣を鞘へ納め、安堵したように笑っている者がほとんどだった。負傷した者はいるけれど、致命傷を負った兵士はいなさそうだ。
私も剣を納めてから、玉座へと向かった。
「お疲れ様でございます、殿下」
「……うん、ジニーも」
「あまり嬉しそうではございませんのね」
「そりゃそうだよ。玉座の間を、血で汚してしまったから」
「だとしても」
言いかけた私を遮って、縛られたまま座り込んでいたアーサー殿下が言った。
「それは僕への嫌味かよ。モルドレッド、どうであれ勝てば官軍だ。勝鬨を上げろ。それが勝った将の責任だよ」
「でも」
「アーサー殿下のおっしゃるとおりです。あなた様が勝ったのですから、勝軍の将として兵士たちを労わなくてはなりません」
モルドレッド殿下は肩を落として私とアーサー殿下を見比べた。
「今気づいたけど、兄上とジニーは俺に優しくないところがそっくりだな」
「あら、やっとお気づきになりましたの」
「なんだ、気づいてなかったのか」
ほぼ同時に私とアーサー殿下が口を開いた。
「だから私たち仲が良くないんですのよ」
「だから僕らはあまり近寄らないようにしてるのさ」
「ねー」と、私たちは顔を見合わせた。
モルドレッド殿下は苦笑まじりに笑い、鞘から剣を抜いた。
そのまま兵士たちの方へと向き直り、天へと剣を掲げた。
「ついてきてくれた、兵たちよ! 我らの勝利だ!!」
「おー!」
「殿下ー!!」
「姫様ー!!」
疲れ果てていたはずの兵士たちが、それでも力強く拳を突き上げた。
その歓声に合わせるように、父や貴族たちが玉座の間へ戻ってきた。
モルドレッド殿下は集まった貴族たちを見渡し、はっきりと声を張った。
「ここまでついてきて下さり、ありがとうございました! 申し訳ありませんが、負傷者の手当てをお願いいたします!」
父が頷いた。
「むろんだ。城の救護室から侍従を呼んで来るんだ。侍女や付き人も、呼べるだけ呼ぶように」
貴族たちの付き人が、慌ただしく玉座の間を駆け出していく。
それを確認してから、モルドレッド殿下は玉座の前で腰を落とした。
私も国王陛下の容態を確かめるため、そっと身をかがめた。
背後で足音が響き、振り返ると父とアグラヴェイン卿が階段を上がってきていた。
「陛下のご容態は?」
「俺には判断できない……兄上?」
「長らく洗脳状態だったんだ。僕から軽々しく大丈夫とは言えないよ」
「殿下……っ」
アグラヴェイン卿が、怒りを押し殺した目でアーサー殿下をきつく睨みつけた。
その時、静まり返った玉座の間の裏口が静かに開いた。
途中で離宮の兵士へ声をかけ、拘束用のロープを持ってこさせる。
アーサー殿下は諦めたような笑顔で両手を差し出した。
差し出された手首を背中側でロープに縛りながら、モルドレッド殿下は小さくつぶやいた。
「こんなことしなくたって、兄上は立派な王になれるお方なのに」
ひどく小さな声だったはずなのに、静まり返った室内では妙にはっきり響いて聞こえた。
「そう言ってくれるのは、たぶんお前だけだよ」
アーサー殿下が、自嘲するように小さくつぶやいた。
そんなことはない。けれど、それを私が口にするのも違う気がして、黙っていた。
***
室内を見回す。
離宮の兵士たちは肩で荒く息をしながらも、剣を鞘へ納め、安堵したように笑っている者がほとんどだった。負傷した者はいるけれど、致命傷を負った兵士はいなさそうだ。
私も剣を納めてから、玉座へと向かった。
「お疲れ様でございます、殿下」
「……うん、ジニーも」
「あまり嬉しそうではございませんのね」
「そりゃそうだよ。玉座の間を、血で汚してしまったから」
「だとしても」
言いかけた私を遮って、縛られたまま座り込んでいたアーサー殿下が言った。
「それは僕への嫌味かよ。モルドレッド、どうであれ勝てば官軍だ。勝鬨を上げろ。それが勝った将の責任だよ」
「でも」
「アーサー殿下のおっしゃるとおりです。あなた様が勝ったのですから、勝軍の将として兵士たちを労わなくてはなりません」
モルドレッド殿下は肩を落として私とアーサー殿下を見比べた。
「今気づいたけど、兄上とジニーは俺に優しくないところがそっくりだな」
「あら、やっとお気づきになりましたの」
「なんだ、気づいてなかったのか」
ほぼ同時に私とアーサー殿下が口を開いた。
「だから私たち仲が良くないんですのよ」
「だから僕らはあまり近寄らないようにしてるのさ」
「ねー」と、私たちは顔を見合わせた。
モルドレッド殿下は苦笑まじりに笑い、鞘から剣を抜いた。
そのまま兵士たちの方へと向き直り、天へと剣を掲げた。
「ついてきてくれた、兵たちよ! 我らの勝利だ!!」
「おー!」
「殿下ー!!」
「姫様ー!!」
疲れ果てていたはずの兵士たちが、それでも力強く拳を突き上げた。
その歓声に合わせるように、父や貴族たちが玉座の間へ戻ってきた。
モルドレッド殿下は集まった貴族たちを見渡し、はっきりと声を張った。
「ここまでついてきて下さり、ありがとうございました! 申し訳ありませんが、負傷者の手当てをお願いいたします!」
父が頷いた。
「むろんだ。城の救護室から侍従を呼んで来るんだ。侍女や付き人も、呼べるだけ呼ぶように」
貴族たちの付き人が、慌ただしく玉座の間を駆け出していく。
それを確認してから、モルドレッド殿下は玉座の前で腰を落とした。
私も国王陛下の容態を確かめるため、そっと身をかがめた。
背後で足音が響き、振り返ると父とアグラヴェイン卿が階段を上がってきていた。
「陛下のご容態は?」
「俺には判断できない……兄上?」
「長らく洗脳状態だったんだ。僕から軽々しく大丈夫とは言えないよ」
「殿下……っ」
アグラヴェイン卿が、怒りを押し殺した目でアーサー殿下をきつく睨みつけた。
その時、静まり返った玉座の間の裏口が静かに開いた。