人質令嬢、第二王子と国家反逆を狙う
数日後。予告どおり、貴族たちは順にそれぞれの領へ帰って行かれた。
俺――モルドレッド・ドレイクは、ジェニファー・ヴォーティガンと母上である第二王妃殿下と共に、彼らを見送った。
その後も、決して暇になどならなかった。
豊穣祭を終えると、王都は冬のホリデーへ向けて人も物流も慌ただしくなり、地方ではヴォーティガン卿が仰っていたように冬支度を進めていかなくてはいけなかった。
街道整備はもちろん、治水関連も雪が降る前にできる限り進めておく必要がある。
あれからも兄上とは、なんだかんだで柵越しの付き合いが続いていた。
「さすがに朝晩は冷えるから、追加で毛布くれよ」
「図々しい囚人だな。自業自得だ。そこで震えとけ」
「寒くて、書類の場所が思い出せないんだ」
「いけしゃあしゃあと……辞書の『盗人猛々しい』の項目に、兄上の名前を加えておいてやる」
「はは、それはいいな。書物にずっと僕の名前が残る」
反省しているのか、していないのか。
兄上は、前よりずっと肩の力が抜けたように見えた。
それがいいことなのか悪いことなのか、俺にはまだわからない。それに、今後兄上をどう処遇するのかも決まっていなかった。
おそらくは、兄上の母である正妃殿下のご実家で、“療養”という名目の幽閉になるのだろうけど。
そして間もなく社交シーズンも終わるから、今季の締めくくりとして、王家主催のパーティを開く必要があった。
とはいえ、地方貴族をこれ以上行き来させるのは申し訳ない。招待するのは王都に住む宮廷貴族と、日帰り、あるいは一、二泊で来られる近隣の貴族だけになるだろうか。
兄上と俺のごたごたに巻き込んでしまった以上、お詫びも兼ねて、きちんと挨拶の場を設ける必要があった。
まあ、それはそれでジニーを着飾らせる理由にもなるし、将来的に彼女が王妃となる以上、きちんとその旨を公言しておきたかった。
一応、その件は母上とも相談を進めている。元々、秋の初めに母上と正妃殿下で王家主催の社交パーティを開く予定だったらしく、その準備をそのまま流用し、ジニーにも手伝ってもらいながら進めよう、という話で女性陣の間ではまとまっているらしかった。
それから、他には――
次の打ち合わせで確認すべき内容を思い返しながら城内を急いでいると、不意にジニーの声が聞こえた。
窓から顔を出すと、中庭の演習場でジニーが元兄上付きの衛兵と模擬戦をしているところだった。
「そこ、空いてますわ!」
「ぬ、なんの……っ」
ジニーの木剣が、攻撃を防ごうとした相手の籠手を強かに叩いた。
審判役の離宮の兵士が「はい、そこまで! うちの姫様の勝ち!」と止めに入った。
ジニーは投げ渡されたタオルで汗をぬぐいながら、ふと顔を上げた。
「殿下!」
彼女は輝くような笑顔で俺に手を振った。
ドレスも着ていないし、宝石どころかアクセサリーの一つもつけていない。一般兵と同じようなシャツと革の防具姿だ。それでも俺には、誰よりも美しく見えた。
「なあ、ジニー」
「なんですの?」
「俺と結婚してくれ」
「喜んで!」
ジニーが両手で、大きな丸を作って見せた。
俺――モルドレッド・ドレイクは、ジェニファー・ヴォーティガンと母上である第二王妃殿下と共に、彼らを見送った。
その後も、決して暇になどならなかった。
豊穣祭を終えると、王都は冬のホリデーへ向けて人も物流も慌ただしくなり、地方ではヴォーティガン卿が仰っていたように冬支度を進めていかなくてはいけなかった。
街道整備はもちろん、治水関連も雪が降る前にできる限り進めておく必要がある。
あれからも兄上とは、なんだかんだで柵越しの付き合いが続いていた。
「さすがに朝晩は冷えるから、追加で毛布くれよ」
「図々しい囚人だな。自業自得だ。そこで震えとけ」
「寒くて、書類の場所が思い出せないんだ」
「いけしゃあしゃあと……辞書の『盗人猛々しい』の項目に、兄上の名前を加えておいてやる」
「はは、それはいいな。書物にずっと僕の名前が残る」
反省しているのか、していないのか。
兄上は、前よりずっと肩の力が抜けたように見えた。
それがいいことなのか悪いことなのか、俺にはまだわからない。それに、今後兄上をどう処遇するのかも決まっていなかった。
おそらくは、兄上の母である正妃殿下のご実家で、“療養”という名目の幽閉になるのだろうけど。
そして間もなく社交シーズンも終わるから、今季の締めくくりとして、王家主催のパーティを開く必要があった。
とはいえ、地方貴族をこれ以上行き来させるのは申し訳ない。招待するのは王都に住む宮廷貴族と、日帰り、あるいは一、二泊で来られる近隣の貴族だけになるだろうか。
兄上と俺のごたごたに巻き込んでしまった以上、お詫びも兼ねて、きちんと挨拶の場を設ける必要があった。
まあ、それはそれでジニーを着飾らせる理由にもなるし、将来的に彼女が王妃となる以上、きちんとその旨を公言しておきたかった。
一応、その件は母上とも相談を進めている。元々、秋の初めに母上と正妃殿下で王家主催の社交パーティを開く予定だったらしく、その準備をそのまま流用し、ジニーにも手伝ってもらいながら進めよう、という話で女性陣の間ではまとまっているらしかった。
それから、他には――
次の打ち合わせで確認すべき内容を思い返しながら城内を急いでいると、不意にジニーの声が聞こえた。
窓から顔を出すと、中庭の演習場でジニーが元兄上付きの衛兵と模擬戦をしているところだった。
「そこ、空いてますわ!」
「ぬ、なんの……っ」
ジニーの木剣が、攻撃を防ごうとした相手の籠手を強かに叩いた。
審判役の離宮の兵士が「はい、そこまで! うちの姫様の勝ち!」と止めに入った。
ジニーは投げ渡されたタオルで汗をぬぐいながら、ふと顔を上げた。
「殿下!」
彼女は輝くような笑顔で俺に手を振った。
ドレスも着ていないし、宝石どころかアクセサリーの一つもつけていない。一般兵と同じようなシャツと革の防具姿だ。それでも俺には、誰よりも美しく見えた。
「なあ、ジニー」
「なんですの?」
「俺と結婚してくれ」
「喜んで!」
ジニーが両手で、大きな丸を作って見せた。


