策士な財閥ホテル王は政略妻との初恋を実らせる
1 サプライズな政略結婚
 日本を代表する高級ラグジュアリーホテル、【スイートキングズホテル東京】。

 都内主要駅から徒歩三分の好立地で、国内外から人気がありVIPも多く迎え入れている。

 その三十五階にある日本料理店の個室で、慣れない振り袖と初めての顔合わせという状況に、極度の緊張を感じていたときだった。

 扉の向こうから颯爽と現れた相手の姿に、私、福本(ふくもと)美雨(みう)は絶句した。

 まさか呼吸を忘れるほど驚くなんて……。生まれてこれまで二十五年間、経験がない。

 息を止めて硬直する私に対し、相手は片目を細めて笑みを浮かべる。

「お待たせして申し訳ありません、福本さん」

 静止する私の隣で、娘の動揺など知る由もない父がすっくと立ち上がった。

「いえいえ、とんでもない。私どもも今来たところですから」

 父は言いながら、相手に笑顔を向ける。

 普段は仕事一辺倒で無骨な父の、こんな柔和な笑顔を初めて見た。

 どうやらとんでもなく格上の家柄の相手に、ご機嫌をうかがっているようだった。

 両足にグッと力を入れて私も遅れて立ち上がる。

「は、はじめまして。福本美雨です」

 たじろぎすぎて声が震えた。

 初対面の挨拶は家で何度もシュミレーションしてきたけれど……心を乱しても無理はない。

 だって、嘘なのだ。『はじめまして』だなんて。

「はじめまして、美雨さん。城下(しろした)雪成(ゆきなり)です。お会い出来て光栄です」

 高い位置から私を見下ろした相手は、飄々と言い端正な顔を綻ばせる。

 切れ長の涼しげな目もとに、きりりと精悍な眉、スッと高い鼻梁と整った形のいい唇。

 あまりにも魅力的な容貌に狼狽してしまう。

 そう、二週間前にも思った。

 場所はここ、スイートキングズホテル東京で。

「本日はお越しくださり、本当にどうもありがとうございます。なにより美雨さんは結婚に大変前向きなようでして、大変喜ばしい限りです」

 彼の言葉に顔が引きつる。

「美雨が結婚に前向き……?」

 つぶやいた父は目を丸くした。

 相手は泰然と笑っているけれど、私は顔面が凍りつき、少しでも表情筋を動かそうものなら頬にヒビが入りそうだった。
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