憧れのセカイへ!
 ワン、ツー、スリー、フォー。一定のリズムに合わせて速い動きをするのにまだ慣れないなぁ。
 それに加えて歌いながら踊らないといけないから、体力がまだまだ足りない。

 「最後にターン決めて! ……よし、終わり。じゃあ休憩しようか」

 「はぁ、疲れたー」

 練習が終わってわたしは床に倒れ込んだ。
 この時期は汗がダラダラと出てくるし、熱中症にも気をつけないといけないなんて……。
 葵ちゃんは息切れもしていなく、汗も少ししか出ていない。

 「葵ちゃん、何で夏なのにそんな清々しいの? わたしなんてこんな疲れ果てているのに……」

 「体操服の下にひんやり冷えるシャツを着てるだけだよ。それだけでもだいぶ違うから、のぞみもやってみて」

 「へぇ、そんなのがあるんだね。後で買ってみる!」

 「あと、疲れちゃうのはまだまだのぞみの体力が足りてないんだと思う。もう少し筋トレやランニングをしたほうがいいかも」

 わたしは頷いた。
 Solatioを引っ張ってくれているのは、間違いなく葵ちゃんだ。
 自分の練習もあるのに、わたしにアドバイスまでくれて。本当に見習わなければ。

 「あ、ごめん葵ちゃん、わたしファッションショーのお仕事に行かなきゃ」

 「ファッションショーって……のぞみも出るの?」

 「うん、出るよ。新人アイドルだけが出演するファッションショーに呼んでもらえたんだ」

 初めて出るファッションショーは緊張が大きいけど、でも楽しみ!

 「ちょっとー、のぞみ、遅いじゃない。早く来なさい、遅刻するわよ」

 「あっ、梨央奈ちゃん。ごめんごめん、今すぐ行くから待ってて!」

 「全くもう、何でわたしが待たなきゃいけないのよ」

 と言いながらも、梨央奈ちゃんは扉の前で立ち止まっていてくれる。
 これから出るファッションショーは、梨央奈ちゃんと一緒にランウェイを歩くことになっている。
 前の生放送番組でわたしたちふたりの人気が出たみたいで、ふたり揃ってのオファーが来たのだ。

 葵ちゃんに行ってきますと声を掛けようと思ったけれど、もう葵ちゃんはどこかへ行ってしまった。
 少し気掛かりだったけど、特に疑問は持たずわたしは梨央奈ちゃんとファッションショーのお仕事をした。
 このときはまだ分からなかった。わたしたちの友情に、ヒビが入ってしまうなんてーー。


 時計を見ると、もう夜の八時だった。
 いけない、七時から葵ちゃんとレッスンの約束をしていたのに……!
 でも帰りの電車が遅延してしまったせいなので、きっと葵ちゃんは許してくれるだろう。そう思っていた。

 「葵ちゃん!」

 レッスン部屋に行くと、葵ちゃんはひとりで歌とダンスの練習をしていた。わたしが来ても曲を止めることはなかった。
 曲が終わって、わたしは葵ちゃんのそばに駆け寄った。

 「お疲れ様。ごめんね、遅くなっちゃって」

 「……何で遅刻したの?」

 「あ、それは電車が遅延してて」

 葵ちゃんの表情が険悪になる。
 ……あれ? 何か怒ってる?

 「それ、分かってたんだよね? ならわたしに連絡してくれても良かったんじゃない? どうして連絡くれなかったの?」

 「あ……ごめんなさい。葵ちゃんは待っててくれるだろうと思って」

 「アイドルなら遅刻することが決まったら連絡するのは当たり前だよね? のぞみは数ヶ月で何を学んだの? のぞみが言ってることは、ただ相手に甘えてるだけだよ」

 葵ちゃんは間違ったことは何一つ言っていない。
 だけど仕事で疲れていたせいか、頭のなかの何かがプツンと切れてしまった。

 「……そんな言い方しないでよ。わたしは葵ちゃんの邪魔をしたくなかったの。確かに遅れちゃったのは悪いけど、そんな強く言わないでほしい」

 「じゃあどういう言い方をすれば良かった? のぞみはこれからアイドルとして一人前になっていく。それなのにわたしに甘えてばかりじゃ成長できないよ。自分のミスを認めて、何が間違ってたか知っていかなきゃ」

 「で、でも、チームの仲間なんだから、もう少し優しく言ってほしかったな。少なくともわたしは葵ちゃんが何か間違っていたら、優しく言って一緒に直すよ!」

 しーん、と沈黙が続く。
 葵ちゃんは何か考え込んで、やっと口を開いた。

 「のぞみ、わたしたち合ってないみたい。しばらくふたりでレッスンするのは控えよう。八月に入ったら、今後どうしていくか決める。それでどう?」

 「うん、分かった」

 「決まりね。じゃあ」

 葵ちゃんはそう言って、レッスン室を去ってしまった。わたしと葵ちゃんの間に、大きな壁ができてしまったみたい。
 わたしはぼーっと立ち尽くして、葵ちゃんを追うことはできなかった。
 わずか二週間足らずで、Solatioは別々になってしまったのだった。
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