憧れのセカイへ!
 夏休みに入って一週間が経った。もう葵ちゃんとは三週間も口を利いていない。
 だけど葵ちゃんが出ているテレビ番組やラジオなどは見ている。時々チームコンテストのことについて聞かれているけれど、葵ちゃんは笑顔で誤魔化しているみたいだった。
 Solatioとして、せっかく頑張ろうと意気込んでいたのに、まさかこうなってしまうなんて。

 「のぞみ、考え込んでどうしたの? そろそろ本番よ」

 「梨央奈ちゃん、ごめん。もう時間だよね」

 わたしたちはレギュラーメンバーとして、週に一度生放送番組に出ている。
 こんなに梨央奈ちゃんとわたしの人気が出るなんてびっくりするけど、楽しく頑張っていけている。

 「月川さん、原さん。スタンバイお願いしまーす」

 「はい! 行くわよ、のぞみ。いつまでも落ち込んでないでちゃんとやりなさいよ。仕事は仕事なんだから」

 わたしは強く頷いた。
 その通りだ。番組を通してわたしのことを応援してくれるファンのみんなに心配させてはいけない。
 気持ちを切り替えていこう。

 「こんにちは、今週もこの時間がやってきました! お馴染みのゲストのお二人に来ていただきました。原梨央奈さん、月川のぞみさんよろしくお願いします」

 「よろしくお願いします!」

 「さてさて、お二人が通っている天美学院の有名なコンテストまで、二ヶ月を切ってしまいましたね。そのコンテストの名前はチームコンテスト。お二人もチームを組んでいるんですよね」

 わたしたちは頷いた。
 やっぱり、チームコンテストの話題が来ちゃうよね……。
 少しだけ、胸が重くなった気がした。

 「原さんは、あの諏訪光里さんのお手伝い係に属している、小田凛香さんと組んだんですよね。チーム名を教えていただいても?」

 「はい、チーム名は“ユニーク”といいます。わたしたちは個性を大切にしているので、その名前にしました。凛香さんは厳しく指導してくださるので、自分の実力を高めてくれるパートナーです」

 「それはいいですね。ユニークという名前はまさにお二人にぴったりです。続いて月川さんもチームについて教えてください」

 チラッと横目で梨央奈ちゃんが合図をしてきた。
 『ちゃんと上手く言ってね』という気持ちがひしひしと伝わってくる。

 「はい、わたしは奥谷葵ちゃんとチームを組みました。名前はSolatio、陽だまりという意味です」

 「奥谷さんといえば、定期的にラジオに出演し、新人アイドルとしてもとても有名な方ですね。月川さんにとって奥谷さんはどんな存在ですか?」

 「……葵ちゃんは、すごく頼りになる存在です。真面目に指導してくれて、自分の仕事があるのにわたしにアドバイスまでしてくれて、友達思いの優しい子なんです。わたしは……葵ちゃんのことを大切に思っていると同時に、憧れています」

 そう言うと、その場にいるスタッフさんたちが驚いた顔をした。

 「憧れ……それは何故なのかお伺いしてもいいですか?」

 「はい。わたしはまだまだスタートの合図でやっと走り出したので、挫折ばかりしていたんです。でも葵ちゃんは、そんなとき励ましてくれました。アイドルの先輩としても尊敬しているし、人として憧れるんです。自分もあんなふうに人に優しくできるようになりたいな、って」

 「……なるほど。お互いがお互いを尊重しあえる。なんて素敵なチームなんでしょうね」

 お互いがお互いを、尊重しあえる?
 どういう意味なのだろうと思っていると、突然MCの方がスマートフォンを見た。

 「先週募集したお便りを読みます。“ペンネーム、奥谷葵さんから”」

 「えっ」

 「“わたしは、月川のぞみさんに憧れを抱いています。一点の光に対してどこまでも走り続ける、そんな姿がとても眩しくて、思わず見惚れてしまうのです。そんな素敵な人とチームを組めて、すごく幸せです。のぞみ、ありがとう”」

 涙が溢れて止まらなかった。
 葵ちゃん……! 秘密にお便りを送っていてくれたんだね。
 まさかこんなサプライズがあるなんて思わなくて、嬉しいという感情以外なかった。
 ……わたし、決めたよ。もう逃げたりなんかしない。葵ちゃんと向き合って、ちゃんと話そう。

 「ありがとうございます。わたしたちSolatioは……チームコンテスト優勝を目指します。どうか応援よろしくお願いします!」

 「わたしたちユニークも負けていません! チームコンテストはますます盛り上がっていきます。みんな、応援してねー!」

 梨央奈ちゃん……!
 わたしが勢いよくチームコンテストの宣伝をしてしまったところ、梨央奈ちゃんがフォローしてくれた。

 「天美学院のチームコンテスト、優勝はどのチームなのか。とっても楽しみですね! ではありがとうございました!」

 わたしは番組が終わってから、MCの方に頭を下げた。

 「あの、ありがとうございました。葵ちゃんのお便りを読んでくれて」

 「いえいえ、まさか奥谷さんがお便りを書いているなんて思いもしなかったけど、せっかくだし読んであげたかったんですよ。お便りを読んでると、月川さんを想う奥谷さんの気持ちが伝わってきたので」

 ……わたしを想う、葵ちゃんの気持ち。
 そうだ、あの喧嘩してしまった日も、葵ちゃんはわたしのために強く言ってくれた。それなのにわたしは逃げてばかりいて……。
 このままじゃダメ。一週間後の約束している日、葵ちゃんとしっかり話さないと。
 Solatioを、取り戻すために。
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