憧れのセカイへ!
冬が近づいてくると、やはり朝起きるのが苦痛に感じてしまう。
あたたかい布団から出たくないけど、でもトップコンテストまであと二ヶ月切ったんだ。頑張らないと!
「おはよう、のぞみ。マフラー出しといたわよー」
「お母さまおはよう。うわぁ、ありがとう」
「十一月に入ったし、冷えるからね。体調には気をつけなさいよ」
「うん、もちろん!」
髪は下ろして行こうかな。
いつもは上の方にひとつに束ねているけれど、こうやって髪を下ろしてみると前より髪が伸びたことが見て分かるようになった。
光里さんのような、腰まである長くて綺麗な髪が憧れるなぁ。
「お姉ちゃん、おはよ」
「ここみおはよう! あれ、そのパンフレット」
ここみが手に持っていたのは、天美学院のパンフレットだった。
「そう。わたしも天美学院を受験するの」
「えっ、ちょ、ちょっと待って。お母さん、わたし聞いてないよ!?」
「だって近頃ののぞみはチームコンテストだったりトップコンテストに向けての練習だったりで忙しそうだったんだもの。なかなか言い出せなくて」
まさかここみも天美学院を受験するだなんて……!
驚いた。
「わたし、アイドルが昔から好きで憧れていたけど、お姉ちゃんや……葵ちゃんを見て本気でアイドルになってみたいなって思ったの。だから天美学院を受験する。いいでしょ、先輩」
「ここみ……。もちろんだよ、わたしはここみが決めたことは全力で応援する! 待ってるからね」
ここみは恥ずかしそうに笑った。
「お姉ちゃん、今日はお仕事あるの?」
「うん。それも光里さんと一緒の、テレビ番組のお仕事なんだ」
「光里さんって……あの諏訪光里!? すごい、お姉ちゃん。さすがチームコンテスト優勝者」
「ありがとう。でも光里さんを呼び捨てにしない!」
「はぁーい」
そう。今日は光里さんと一緒のお仕事がある。
だから決心していることがある。それは……光里さんの悩みを聞くこと。
「じゃあ行ってきます」
「行ってらっしゃい、頑張ってね」
「葵ちゃんによろしくね」
「はーい!」
外に出ると、意外とあたたかかった。そうか、マフラーを巻いているから。
わたしはマフラーに顔を埋める。家族のぬくもりが、すごく伝わってくるような気がした。
テレビ局につくと、お弁当がたくさん並んであって思わず二度見した。
すごい、やっぱり光里さんがいるだけで何でも豪華に見える。
「諏訪光里さんご到着されました」
「おはようございます!」
「おはようございます。みなさん、お忙しい中朝早くから準備していただいてありがとうございます。本日はどうぞよろしくお願い致します」
そう言って、光里さんはスタッフ一人一人にクッキーのようなものを渡していた。
あれは何だろう……?
「のぞみちゃん」
「あっ、光里さん、おはようございます」
「これ、のぞみちゃんも良かったらどうぞ」
受け取ったのは、同じくクッキーだった。
「わたし、前にお料理が好きだって言ったでしょう? だから最近お菓子を手作りしてスタッフのみなさんに配っているの」
「手作りなんですか!? でもスタッフのみなさん一人一人に作るなんて、大変じゃ……」
「大変だけど、スタッフさんたちはもっと大変だと思うから。わたしができることなら何でもしたいんだ。お礼みたいなものだしね」
そんなふうに言う光里さんはまるで天使みたいに美しく見えた。
光里さんの思いやりが、このクッキーを通して伝わってくる。
……わたしも、同じように。光里さんのために何でもしてあげたい。
「あの、光里さん。今ってお時間ありますか?」
「うん、大丈夫よ」
「少しお話させてください!」
「……分かった。じゃあ外に行こうか」
光里さんは快く応じてくれた。
本番前のリハーサルまで時間がないのに、申し訳ない。
でもここまで来たからには話さなきゃ。
「えっと、突然すみません。チームコンテストのときから、光里さんのことで気になっていたことがあって」
「うん。何?」
「近藤先生との会話を、聞いてしまったんです。光里さんが天美学院を……辞めるかもしれない、って」
驚かれるかと思ったけれど光里さんは穏やかな表情のままだった。
「何となくそのことかなって思ってた。実はあのとき、のぞみちゃんがその場にいるの知ってたんだ。何か物音がして見たらのぞみちゃんだったから」
「気づかれてたんですね」
「ふふ、まぁね。でもわたしから話すのは違うかなって思って、黙ってたの。ごめんなさい」
「いえ、全然です! それで、わたし思ったんです。光里さんの力になれることがあれば何でもしたいなって。だから良かったら、お話してくれませんか? 光里さんが思っていることを」
そう言うと、光里さんは静かに首を縦に振ってくれた。
「わたしはね……お母さまに憧れて芸能界に入ったんだ。お母さまは元トップアイドルで、いろいろなお仕事をしてた。その姿がとてもかっこよかったの」
「もしかして、諏訪天音さんですか?」
「そう」
諏訪天音さん。三年前に芸能界を引退している、元トップアイドル。天音さんも天美学院の生徒だったという話を聞いたことがある。
苗字が一緒だなと思っていたけれど、やはり光里さんのお母さまだったんだ。
「お母さまが引退した理由はね、病気になってしまったからなの」
「え……」
「今年に入ってから、悪化してきちゃってね。命に関わることはないんだけど、もう足が動かないの。だから車椅子生活をしているんだ。……お母さまが病気になったのはね、わたしのせいなの」
光里さんの表情が、どんどん暗くなっていく。
「お母さまはアイドルを目指すわたしを応援してくれていたの。天美学院に入学させるために自分もアイドルとして頑張ってくれた。でもその結果、頑張りすぎて倒れてしまったの」
「そう、だったんですか」
「お父さまは海外出張が多くてなかなかそばにいられないから、お母さまにはわたししかいないの。だからわたしも芸能界を引退し普通の高校に通って、お母さまの介護をしようと思った。それが天美学院を辞めようとした理由」
あまりにも壮絶すぎる内容で、なかなか声を発せなかった。
光里さんはわたしが思っていた以上に、苦労しているんだ……。
すると光里さんがわたしの頭を優しくぽんぽんとしてくれた。
「ごめんなさい、のぞみちゃん。こんな話、先輩から聞きたくなかったわよね」
「えっ、いえ、そんなこと」
「そろそろリハーサルが始まるから、みんなのところへ戻りましょうか」
その光里さんの笑顔は、無理して作っている気がした。
何か言わなきゃ。そう思っても先程の光里さんの表情を見ると、喉に言葉が詰まって何も言えなかった。
あたたかい布団から出たくないけど、でもトップコンテストまであと二ヶ月切ったんだ。頑張らないと!
「おはよう、のぞみ。マフラー出しといたわよー」
「お母さまおはよう。うわぁ、ありがとう」
「十一月に入ったし、冷えるからね。体調には気をつけなさいよ」
「うん、もちろん!」
髪は下ろして行こうかな。
いつもは上の方にひとつに束ねているけれど、こうやって髪を下ろしてみると前より髪が伸びたことが見て分かるようになった。
光里さんのような、腰まである長くて綺麗な髪が憧れるなぁ。
「お姉ちゃん、おはよ」
「ここみおはよう! あれ、そのパンフレット」
ここみが手に持っていたのは、天美学院のパンフレットだった。
「そう。わたしも天美学院を受験するの」
「えっ、ちょ、ちょっと待って。お母さん、わたし聞いてないよ!?」
「だって近頃ののぞみはチームコンテストだったりトップコンテストに向けての練習だったりで忙しそうだったんだもの。なかなか言い出せなくて」
まさかここみも天美学院を受験するだなんて……!
驚いた。
「わたし、アイドルが昔から好きで憧れていたけど、お姉ちゃんや……葵ちゃんを見て本気でアイドルになってみたいなって思ったの。だから天美学院を受験する。いいでしょ、先輩」
「ここみ……。もちろんだよ、わたしはここみが決めたことは全力で応援する! 待ってるからね」
ここみは恥ずかしそうに笑った。
「お姉ちゃん、今日はお仕事あるの?」
「うん。それも光里さんと一緒の、テレビ番組のお仕事なんだ」
「光里さんって……あの諏訪光里!? すごい、お姉ちゃん。さすがチームコンテスト優勝者」
「ありがとう。でも光里さんを呼び捨てにしない!」
「はぁーい」
そう。今日は光里さんと一緒のお仕事がある。
だから決心していることがある。それは……光里さんの悩みを聞くこと。
「じゃあ行ってきます」
「行ってらっしゃい、頑張ってね」
「葵ちゃんによろしくね」
「はーい!」
外に出ると、意外とあたたかかった。そうか、マフラーを巻いているから。
わたしはマフラーに顔を埋める。家族のぬくもりが、すごく伝わってくるような気がした。
テレビ局につくと、お弁当がたくさん並んであって思わず二度見した。
すごい、やっぱり光里さんがいるだけで何でも豪華に見える。
「諏訪光里さんご到着されました」
「おはようございます!」
「おはようございます。みなさん、お忙しい中朝早くから準備していただいてありがとうございます。本日はどうぞよろしくお願い致します」
そう言って、光里さんはスタッフ一人一人にクッキーのようなものを渡していた。
あれは何だろう……?
「のぞみちゃん」
「あっ、光里さん、おはようございます」
「これ、のぞみちゃんも良かったらどうぞ」
受け取ったのは、同じくクッキーだった。
「わたし、前にお料理が好きだって言ったでしょう? だから最近お菓子を手作りしてスタッフのみなさんに配っているの」
「手作りなんですか!? でもスタッフのみなさん一人一人に作るなんて、大変じゃ……」
「大変だけど、スタッフさんたちはもっと大変だと思うから。わたしができることなら何でもしたいんだ。お礼みたいなものだしね」
そんなふうに言う光里さんはまるで天使みたいに美しく見えた。
光里さんの思いやりが、このクッキーを通して伝わってくる。
……わたしも、同じように。光里さんのために何でもしてあげたい。
「あの、光里さん。今ってお時間ありますか?」
「うん、大丈夫よ」
「少しお話させてください!」
「……分かった。じゃあ外に行こうか」
光里さんは快く応じてくれた。
本番前のリハーサルまで時間がないのに、申し訳ない。
でもここまで来たからには話さなきゃ。
「えっと、突然すみません。チームコンテストのときから、光里さんのことで気になっていたことがあって」
「うん。何?」
「近藤先生との会話を、聞いてしまったんです。光里さんが天美学院を……辞めるかもしれない、って」
驚かれるかと思ったけれど光里さんは穏やかな表情のままだった。
「何となくそのことかなって思ってた。実はあのとき、のぞみちゃんがその場にいるの知ってたんだ。何か物音がして見たらのぞみちゃんだったから」
「気づかれてたんですね」
「ふふ、まぁね。でもわたしから話すのは違うかなって思って、黙ってたの。ごめんなさい」
「いえ、全然です! それで、わたし思ったんです。光里さんの力になれることがあれば何でもしたいなって。だから良かったら、お話してくれませんか? 光里さんが思っていることを」
そう言うと、光里さんは静かに首を縦に振ってくれた。
「わたしはね……お母さまに憧れて芸能界に入ったんだ。お母さまは元トップアイドルで、いろいろなお仕事をしてた。その姿がとてもかっこよかったの」
「もしかして、諏訪天音さんですか?」
「そう」
諏訪天音さん。三年前に芸能界を引退している、元トップアイドル。天音さんも天美学院の生徒だったという話を聞いたことがある。
苗字が一緒だなと思っていたけれど、やはり光里さんのお母さまだったんだ。
「お母さまが引退した理由はね、病気になってしまったからなの」
「え……」
「今年に入ってから、悪化してきちゃってね。命に関わることはないんだけど、もう足が動かないの。だから車椅子生活をしているんだ。……お母さまが病気になったのはね、わたしのせいなの」
光里さんの表情が、どんどん暗くなっていく。
「お母さまはアイドルを目指すわたしを応援してくれていたの。天美学院に入学させるために自分もアイドルとして頑張ってくれた。でもその結果、頑張りすぎて倒れてしまったの」
「そう、だったんですか」
「お父さまは海外出張が多くてなかなかそばにいられないから、お母さまにはわたししかいないの。だからわたしも芸能界を引退し普通の高校に通って、お母さまの介護をしようと思った。それが天美学院を辞めようとした理由」
あまりにも壮絶すぎる内容で、なかなか声を発せなかった。
光里さんはわたしが思っていた以上に、苦労しているんだ……。
すると光里さんがわたしの頭を優しくぽんぽんとしてくれた。
「ごめんなさい、のぞみちゃん。こんな話、先輩から聞きたくなかったわよね」
「えっ、いえ、そんなこと」
「そろそろリハーサルが始まるから、みんなのところへ戻りましょうか」
その光里さんの笑顔は、無理して作っている気がした。
何か言わなきゃ。そう思っても先程の光里さんの表情を見ると、喉に言葉が詰まって何も言えなかった。