憧れのセカイへ!
 いよいよソロステージの日がやってきた。
 今日のために、なんとわたしのオリジナル曲ができた。歌詞はわたしが考えて、天美学院で活動している作曲家の先生が作曲してくれた。
 わたしのソロステージを楽しみにしてくれている人たちや、わたしのことを初めて見る人も大勢いる。だから絶対に失敗できない。
 スタートの合図を聞いて、頑張らなきゃ!

 「おはようございます、月川のぞみです。よろしくお願いします」

 「あっ、月川のぞみさん到着されましたー」

 「おはようございます!」

 スタッフさん数名による大きな挨拶にびっくりしてしまった。すごいな、朝早いのにしっかり準備してくれている。
 今回のライブはわたしだけでなく、他の学校からも何名か出ることになっている。きっとお互い知らない人だから、緊張するよね。
 メイクをしてもらい、楽屋で待機していると。

 「失礼します」

 「あっ、葵ちゃん!」

 葵ちゃんが差し入れを持って来てくれた。

 「本当に来てくれたんだ、ありがとう」

 「決まってるでしょ。口約束だと思ったの?」

 「ううん、そんなことは思ってないよ。ただ葵ちゃんはお仕事も忙しいだろうに」

 「今日はたまたまお仕事がなかったの。それにのぞみのソロステージ、絶対に見たかったからね。はいこれ差し入れ、ドーナツ」

 箱を開けてみると、わたしの大好きなチョコレート味のドーナツが入っていた。

 「うわぁ、美味しそう! ありがとう、葵ちゃん」

 「いいえ。のぞみの武器はその笑顔だね」

 「笑顔?」

 「うん。その笑顔がきっと、のぞみをソロステージまで導いたんだと思う。だから精一杯やってきてね」

 わたしは、心から頷いた。

 「ありがとう、葵ちゃん」

 「月川さーん、出番です」

 「あっ、はい!」

 胸に手を当てると、緊張で心臓のドクンドクンという音が聞こえてきた。
 でも、わたしにはこのドレスがある。だから大丈夫、きっとできる。
 汗で滑るマイクを握りしめて、ステージに立った。

 「みなさん、こんにちは! 天美学院中等部一年生、月川のぞみです」

 お客さんは高齢の方や子どもたち、ステージに立つ学校の生徒さんたちがたくさんいた。
 その中から「中学一年生?」「すごいね」という嬉しい声も聞こえてくる。

 「まだまだわたしはアイドルとしてスタートしたばかりですが、精一杯頑張りますので、どうぞ応援よろしくお願いします!」

 パチパチパチ、と拍手がホールに響く。
 そして曲のイントロが流れた。練習した通りにやれば……!
 ……あれ、思うようにスムーズに動けない。


 “キラキラ眩しい世界が わたしを導いてる
  何か変わりそうな気がして 一歩踏み出した”


 どうして? 音程が安定しないし、リズムもズレてしまう。


 “できることなら 一番星になりたかった
  でもそんな簡単ではなくて
  仲間と一緒に 目指していくよ”

 “青い空には 雲ひとつないみたいに
  わたしも完璧になれるかな?
  憧れのドレスを着て
  今日という日を走り出していこう!”


 曲が終わった。
 でも、何故か達成感がなかった。ただ息切れしたまま立ち尽くしていた。

 「月川のぞみさん、ありがとうございました!」

 その後客席で他のアイドルたちのステージを見て、お客さんを見送るため出口に立った。

 「また見れるの楽しみにしてるね」

 「すごかったよー!」

 そう言ってもらえて、「ありがとうございます」と答えることしかできなかった。
 反対に、こんな言葉も言われた。

 「中学生らしくてかわいかったよ」

 「まだ新人なのに、諏訪光里のドレス着てたよねー」

 と。
 しんどかった。そんなことを言われると思っていなかったから。
 それに、あんなに歌って踊れなかった自分が情けなかった。

 「のぞみ、お疲れ」

 「葵ちゃん……」

 「どうしたの、そんな浮かない顔して。のぞみはすごいよ、ソロでステージに立って、やりきった。自慢できることでしょ」

 わたしはふるふると首を横に振った。

 「全然、できなかったの。思うようにいかなかった。どうして? あんなに頑張ったのに、何で?」

 あれ……わたし、泣いてる?
 そっか。悔しいんだ。せっかくわたしのために曲を作ってくれたのに、光里さんがドレスを貸してくれたのに、わたしはそれに値するパフォーマンスができなかったから。
 もっと自分はできると思ってたのに、そんなことなかったから。

 「大丈夫。これからだよ」

 「あおい、ちゃん」

 「少なくとも喜んでくれたお客さんはたくさんいた。それだけでもすごいことでしょ。のぞみは歌もダンスも経験ないのに上手じゃん。これからもっと頑張ればきっとできるようになるよ」

 「……うん、ありがとう。葵ちゃんが友達で良かった」

 今ここに葵ちゃんがいなかったら、わたしはひとりで泣いていたかもしれない。
 すると葵ちゃんは恥ずかしそうに、チケットを二枚差し出してきた。

 「これは……?」

 「実はね、わたしもソロステージが決まったの。良かったら妹ちゃんとふたりで見に来てほしい」

 「えっ、葵ちゃんソロステージが決まったの!? おめでとう!」

 それに場所もここの市民会館だけど、今日の会場より一回り大きいホールだった。
 すごいな、さすが葵ちゃん。そんなの行くに決まっている。

 「それに妹の分までありがとう。アイドル好きだから絶対喜ぶと思う」

 「こちらこそ。じゃあまた明日学校でね」

 「うん、またね!」

 夕方、風の吹く空をひとりで見上げた。
 太陽はまだ遠くにあるのに、とても眩しくて目を逸らしたくなってしまう。
 でも、光っている姿が綺麗で、目が離せなかった。
 ……落ち込んでいても仕方がない。帰ったら今日の失敗をノートにまとめよう。次にこの経験を生かそう!
 あの光に追いつくには、きっとまだまだ時間がかかりそうだ。
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