優秀な後輩で私も嬉しく思うので、どうぞ『先輩離れ』してください
 心行くまで感想を言い合った後、ふいに沈黙が戻る。 彼の視線はどこかこちらを探るようだった。さっきよりも、少しだけ温度を帯びた静けさに、彼が何かを言いたがっているのだと察した。

「……さっきの続き、話してもいいですか」

 ぽつりと落とされた声に、思わずグラスを持つ手が止まる。

「続きって、何の?」
「帰さないって言った話です」

 思い出した瞬間、心臓が嫌な音を立てた。さっきは勢いで流してしまったけれど、こうして落ち着いた空間で改めて言われると逃げ場がない。

「……いや、帰るから」
「帰しませんよ。帰す気なんて、サラサラありませんから」

 すぐ隣で、低く抑えた声が返ってくる。ちらりと視線を向ければ、彼はさっきと同じ……いや、それ以上に熱を帯びた目でこちらを見ていた。

「もう遅いですし、諦めてください」

 逃げるように視線を逸らし、梅酒を一口飲む。けれど、甘いはずの味がやけに強く感じて、喉の奥がじんと熱くなる。

「……私たちは、…その、仮恋人でしょ?」
「はい」
「線引きは、しないといけないじゃない」

 恐る恐る言いながらも、自分でも何を守ろうとしているのか分からなくなる。ただ1つ確かなのは、このまま流されれば、きっと引き返せなくなるということ。

「線引き、ですか」

 彼は確かめるように繰り返した。
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