優秀な後輩で私も嬉しく思うので、どうぞ『先輩離れ』してください
 改めて頷けば、悪戯に目が細められる。嫌な予感がするも、逃げるよりも早く顔を近づけられる。

「じゃあ、その線はどこに引いてるんですか」
「え?」

 予想外の問いに固まってしまう。

「そんなの、考えたことないんだけど…」
「手を繋ぐのは?」
「…それは、まあ」

 曖昧に頷けば、スルリと手を絡められる。恋人繋ぎで力を込められるが、別に嫌な気はしない。それに気をよくしたのか、彼は肩をくっつけてきた。

「こうやって、隣に座るのは?」
「……大丈夫、だけど」

 1つ1つ確認するように言葉を重ねられて、気づけば逃げ道を塞がれていく。

 「じゃあ…これはどうですか?」

 不意に、彼の指先が私の頬に触れた。優しく、けれど確かに触れているその距離に呼吸が浅くなる。

 「……っ、これは……」

 否定しなければいけないのに、言葉が上手く出てこない。彼の指先が、頬から顎へとゆっくり滑り落ちていく。

 「ダメって言うなら、やめます」

 静かな声だった。強引ではなく、選択を委ねるような言い方。だからこそ余計に、決断を迫られている気がしてしまう。

 言わないと。
 ちゃんと線を引かないと。

 そう思っているのに、かすれた声が無意識の内に言葉を紡いだ。

 「……ダメ、じゃない」

 自分で言ってから、ハッとする。
 けれどもう遅い。彼は一瞬だけ泣きそうに目を細めて、それからゆっくりと距離を詰めてきた。逃げることも、押し返すこともできないまま、気づけば視界いっぱいに彼の顔が広がっていた。

 唇に残ったのは、さっきまで彼が飲んでいた赤ワインの味だった。
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