優秀な後輩で私も嬉しく思うので、どうぞ『先輩離れ』してください
 翌朝、オフィスに足を踏み入れると、昨日よりも一層、濃密な緊張感が漂っていた。

 私がデスクに鞄を置くと、ヒールの高い音が真っ直ぐに近づいてくる。高城さんは、今日も雑誌から抜け出してきたかのような完璧な装いで、自信満々な様子だった。彼女は迷いなく一ノ瀬くんの席へ歩み寄り、私の存在など風景の一部のように視界に入れなかった。

「おはよう、一ノ瀬! 昨日のアドバイス、本当に助かったよ」
「いえ」

 一ノ瀬くんは淡々とキーボードを叩きながら答える。簡素な返答ですら、高城さんは楽しむかのように距離をさらに詰め、軽く腰をかける仕草で資料を覗き込んだ。

「やっぱり私たち、仕事の波長が誰よりも合うみたい。今夜、昨日の続きをやらない?」

 わざと大きめな声で放たれたその言葉に、胸の奥がチリリと焼けた。

(こんなことで嫉妬して大人げない)

 心の中でため息をついていると、隣に佐藤さんが現れる。急なことで驚いていると、明らかに不愉快そうに高城さんを見つめたまま、小さく口を開いた。

「ねぇ、彼女は何? 白石さんの一ノ瀬君にベタベタしちゃって!」
「私の、じゃないですよ。彼女、マーケ部の敏腕エースなんですよ」
「だからって、節度っていうものがあるじゃない」

 どうやら、佐藤さんは高城さんのことが苦手らしい。あからさまな態度に苦笑してしまう。

「仕方ないですよ。一ノ瀬くんが配属された例の特別部署に高城さんもいたんですから」
「ははーん。そこで一ノ瀬君に目付けたわけね」
「言い方が悪いですよ」

 咎めるも、改善する気はないらしい。佐藤さんは顔を顰めたまま、彼女を見やった。
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