優秀な後輩で私も嬉しく思うので、どうぞ『先輩離れ』してください
 21時。
 立ち並ぶビルの照明がほとんど落とされ、昼間の喧騒が嘘のように静まり返っていた頃、私は重い足取りのままエレベーターを降りていた。ガラス扉の向こうに広がるロビーはやけに広く、冷たい空気を孕んでいるように見える。
 
 重い足取りで外に出れば、余計に1人であることを突き付けられてしまう。前まではそれが当たり前だったはずなのに、今はそれを寂しいと感じてしまう自分がいる。その変化のきっかけが何だったのか、考えるまでもなかった。一ノ瀬くんと再会したこと、それだけだった。

 最初はやけに面倒見のいい後輩で、距離感が近くて少し厄介な存在だった。それなのに、気づけば隣にいるのが当たり前になっていて、その時間を心地いいと思っていた自分がいたのだと思う。

(大丈夫。全部、元に戻るだけ)

 そう言い聞かせて顔を上げた、その瞬間だった。

「楽しかったわね~」

 弾む声が静まり返った夜道に鮮明に響いた。
 驚いて振り返った先にいたのは、着飾った高城さんと彼女の隣に立つ一ノ瀬くんだった。一ノ瀬くんは私に気づいた途端、わずかに肩を揺らし、その表情に戸惑いと焦りを滲ませた。けれど、それを見た私の胸に浮かんだのは別の感情だった。

(ああ……お似合いだな)

 高城さんの華やかさと一ノ瀬くんの整った顔立ち。並んで立つだけで1枚の完成された絵のようで、その中に自分が入り込む余地はないと、妙に冷静に理解してしまう。

「……あの」

 低く躊躇うような声が聞こえた。きっと彼の中には言いたいことがいくつもあったのだろう。それでも私が選んだのは、先輩としての距離を守る言葉だった。
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