優秀な後輩で私も嬉しく思うので、どうぞ『先輩離れ』してください
何も欲しがらないあなたへの贈り物
何もかもが平和に終わりを迎えた日から少し経った土曜日。
私は駅前に設置されている時計と自身が身に付けている腕時計を何度も確認していた。
ここは有名な待ち合わせスポット。そして今は、待ち合わせ時間の10分前。
こんなに早く来るつもりはなかった。ただ、部屋で鏡を見ている内に落ち着かなくなって、気づけば家を飛び出していたのだ。どれだけゆっくり歩いても、待ち合わせ時間の遥か前に着いてしまった。
(……遅刻じゃないんだから。…別に、いいじゃない)
小さく自分に言い訳をしてみるけれど、動機が治まってくれるわけではない。プレゼントも、プランも、時間をかけてしっかり考えた。けれど結局、「これで完璧」と胸を張れる自信は最後まで持てないままだった。
そう、今日は一ノ瀬君の誕生日。仮恋人の期限を決める時にさり気なくアピールされた彼の誕生日である。私の誕生日は彼の計画で祝ってもらったため、お返しとして今日のデートは私が諸々のプラン立てをしていた。でも正直、自信はない。
「先輩、お待たせしちゃいましたか?」
背後から低く落ち着いた声がして、びくりと肩が揺れる。振り向けば、一ノ瀬くんがいつもよりも柔らかい表情で立っていた。相変わらず人目を引く容姿をしている彼。女子たちが色めいた視線を送っているのが何となく分かってしまう。
(そういえば、私の誕生日を祝ってくれた時も同じような感じだったな)
あの時はまだ付き合っていなかった。それでも、その視線をどこか嫌に思う自分がいた。きっと、自覚していなかっただけですでに惚れていたのだろう。
「先輩?」
「ぁ、ううん。私も今着いたところだから大丈夫よ」
「本当に?」
「嘘ついて何になるのよ。ほら、行くわよ」
緊張もあるのか、気持ちが早ってしまう。不安な気持ちを隠すように踵を返した時、後ろから一ノ瀬君に手を取られた。
「え、」
「先輩。今日の僕、どうですか?」
急に何を聞かれたのだろう。混乱しながらではあったが何とか言葉を理解し、小さく返す。
「えっと、格好いいと思うわよ。いつもは見ないカジュアルな感じだし」
「ふふっ、良かったです。今日の先輩も一段と可愛いです」
「……え、急に何?」
「こんなに可愛い先輩と一緒に居られるだけで僕は大満足なんです。きっと、どこに行っても楽しいですよ」
きっと、私の緊張を感じたのだろう。そして彼は、「緊張しないでください」という言葉で私が安心しないことを知っている。だから、こうやって遠回しに緊張を解そうとしてくれたのだ。
(ほんと、一ノ瀬くんは私のことをよく見てるわね)
彼の優しさを嬉しく思ってしまう自分がいる。認めよう。好きな人に優しくされて、嬉しくないわけがないのだから。
「ありがと。私も、こんなにも格好いいことしてくれちゃう一ノ瀬君とデートできて嬉しい」
手を握り直し、できる限りの笑みを向ける。一瞬驚いたように目を見開いた彼だったが、すぐに照れたように笑ったのだった。
私は駅前に設置されている時計と自身が身に付けている腕時計を何度も確認していた。
ここは有名な待ち合わせスポット。そして今は、待ち合わせ時間の10分前。
こんなに早く来るつもりはなかった。ただ、部屋で鏡を見ている内に落ち着かなくなって、気づけば家を飛び出していたのだ。どれだけゆっくり歩いても、待ち合わせ時間の遥か前に着いてしまった。
(……遅刻じゃないんだから。…別に、いいじゃない)
小さく自分に言い訳をしてみるけれど、動機が治まってくれるわけではない。プレゼントも、プランも、時間をかけてしっかり考えた。けれど結局、「これで完璧」と胸を張れる自信は最後まで持てないままだった。
そう、今日は一ノ瀬君の誕生日。仮恋人の期限を決める時にさり気なくアピールされた彼の誕生日である。私の誕生日は彼の計画で祝ってもらったため、お返しとして今日のデートは私が諸々のプラン立てをしていた。でも正直、自信はない。
「先輩、お待たせしちゃいましたか?」
背後から低く落ち着いた声がして、びくりと肩が揺れる。振り向けば、一ノ瀬くんがいつもよりも柔らかい表情で立っていた。相変わらず人目を引く容姿をしている彼。女子たちが色めいた視線を送っているのが何となく分かってしまう。
(そういえば、私の誕生日を祝ってくれた時も同じような感じだったな)
あの時はまだ付き合っていなかった。それでも、その視線をどこか嫌に思う自分がいた。きっと、自覚していなかっただけですでに惚れていたのだろう。
「先輩?」
「ぁ、ううん。私も今着いたところだから大丈夫よ」
「本当に?」
「嘘ついて何になるのよ。ほら、行くわよ」
緊張もあるのか、気持ちが早ってしまう。不安な気持ちを隠すように踵を返した時、後ろから一ノ瀬君に手を取られた。
「え、」
「先輩。今日の僕、どうですか?」
急に何を聞かれたのだろう。混乱しながらではあったが何とか言葉を理解し、小さく返す。
「えっと、格好いいと思うわよ。いつもは見ないカジュアルな感じだし」
「ふふっ、良かったです。今日の先輩も一段と可愛いです」
「……え、急に何?」
「こんなに可愛い先輩と一緒に居られるだけで僕は大満足なんです。きっと、どこに行っても楽しいですよ」
きっと、私の緊張を感じたのだろう。そして彼は、「緊張しないでください」という言葉で私が安心しないことを知っている。だから、こうやって遠回しに緊張を解そうとしてくれたのだ。
(ほんと、一ノ瀬くんは私のことをよく見てるわね)
彼の優しさを嬉しく思ってしまう自分がいる。認めよう。好きな人に優しくされて、嬉しくないわけがないのだから。
「ありがと。私も、こんなにも格好いいことしてくれちゃう一ノ瀬君とデートできて嬉しい」
手を握り直し、できる限りの笑みを向ける。一瞬驚いたように目を見開いた彼だったが、すぐに照れたように笑ったのだった。