優秀な後輩で私も嬉しく思うので、どうぞ『先輩離れ』してください
最後に選んだのは、少しだけ背伸びをしたレストランだった。落ち着いた照明に静かな音楽。運ばれてくる料理はどれも綺麗で、味も間違いなくて。正直、予約の電話を入れるには勇気が必要だったけれど__
「美味しいです」
「口に会ったようで良かった」
「このお店だけではありません。今日1日、本当ありがとうございます」
その一言で、今日までの迷いが全て報われた気がした。大切な人に喜んでもらえることがこんなにも嬉しかったなんて、すっかり忘れていた。
「ううん。こんなに詰め込んだ学生みたいなプランだったのに、喜んでくれてありがとう」
「こういうデートが好きなんです。まあ、先輩が一緒に居てくれればどこでも楽しいんですけどね」
「またそんな調子のいいこと言って」
「全部本音ですよ」
そんな会話をしながら食事を終えて店を出ると、外はすっかり深い夜に包まれていた。
街灯の明かりが道を柔らかく照らしていて、昼間とは違う静けさが足元に広がっている。
しばらく並んで歩く。さっきまであんなに喋っていたのに、不思議と今は言葉が出てこない。そう、まだ伝えないといけないことがある。今日1番の大きな要素。最後まで実行するか迷い抜いたアレが。
「改めまして、今日はありがとうございました」
ぽつりと一ノ瀬くんが言った。満足したような笑みで優しく私のことを見下ろしている。
「誕生日をこんなふうに過ごしたのは久しぶりでした」
「満足?」
「はい!」
元気よく返された言葉。本当に満足そうな表情に、喉元まで出かかっていた言葉が頭をもたげる。
プレゼント
結局、形に残るものは用意できなかった。何をあげればいいのか、彼に相応しいものは何なのか、考えれば考えるほど分からなくなってしまった。そもそも、一ノ瀬君の性格上、あまり物を欲しがる質ではないのだろう。何度かお邪魔した家の様子から、それは十分に伺えていた。
だから、私からあげられるものなんて限られていた。
足が止まる。
「先輩?」
不思議そうに振り返る彼に、私は夜の空気を思い切り吸い込んだ。失敗したら、その時は笑えばいい。きっと彼も、一緒になって笑ってくれるから。
「……ねえ、一ノ瀬くん」
「はい」
「その……プレゼント、なんだけど」
言い出したはいいものの、急に心臓がうるさくなる。逃げ出したくなるのを必死に堪えて、私は一気に言葉を絞り出した。
「何が欲しいか、最後まで分からなかったの」
「そりゃそうですよ。今欲しい物が無いんですから。そんなこと気にしないでください。一緒に居られただけで満足です」
「でも、考えたの。私があげられるもので、一ノ瀬くんが喜びそうなもの。………その……」
視界が熱い。自分の心音が耳の奥で鳴り響く。
「……私を、あげる」
震えながら小さく言った瞬間、頭の中が真っ白になった。変なことを言っている自覚はある。でも、もう取り消せない。
沈黙。
怖くて顔を上げられない。やがて、彼が1歩近づいてくる気配がした。
「美味しいです」
「口に会ったようで良かった」
「このお店だけではありません。今日1日、本当ありがとうございます」
その一言で、今日までの迷いが全て報われた気がした。大切な人に喜んでもらえることがこんなにも嬉しかったなんて、すっかり忘れていた。
「ううん。こんなに詰め込んだ学生みたいなプランだったのに、喜んでくれてありがとう」
「こういうデートが好きなんです。まあ、先輩が一緒に居てくれればどこでも楽しいんですけどね」
「またそんな調子のいいこと言って」
「全部本音ですよ」
そんな会話をしながら食事を終えて店を出ると、外はすっかり深い夜に包まれていた。
街灯の明かりが道を柔らかく照らしていて、昼間とは違う静けさが足元に広がっている。
しばらく並んで歩く。さっきまであんなに喋っていたのに、不思議と今は言葉が出てこない。そう、まだ伝えないといけないことがある。今日1番の大きな要素。最後まで実行するか迷い抜いたアレが。
「改めまして、今日はありがとうございました」
ぽつりと一ノ瀬くんが言った。満足したような笑みで優しく私のことを見下ろしている。
「誕生日をこんなふうに過ごしたのは久しぶりでした」
「満足?」
「はい!」
元気よく返された言葉。本当に満足そうな表情に、喉元まで出かかっていた言葉が頭をもたげる。
プレゼント
結局、形に残るものは用意できなかった。何をあげればいいのか、彼に相応しいものは何なのか、考えれば考えるほど分からなくなってしまった。そもそも、一ノ瀬君の性格上、あまり物を欲しがる質ではないのだろう。何度かお邪魔した家の様子から、それは十分に伺えていた。
だから、私からあげられるものなんて限られていた。
足が止まる。
「先輩?」
不思議そうに振り返る彼に、私は夜の空気を思い切り吸い込んだ。失敗したら、その時は笑えばいい。きっと彼も、一緒になって笑ってくれるから。
「……ねえ、一ノ瀬くん」
「はい」
「その……プレゼント、なんだけど」
言い出したはいいものの、急に心臓がうるさくなる。逃げ出したくなるのを必死に堪えて、私は一気に言葉を絞り出した。
「何が欲しいか、最後まで分からなかったの」
「そりゃそうですよ。今欲しい物が無いんですから。そんなこと気にしないでください。一緒に居られただけで満足です」
「でも、考えたの。私があげられるもので、一ノ瀬くんが喜びそうなもの。………その……」
視界が熱い。自分の心音が耳の奥で鳴り響く。
「……私を、あげる」
震えながら小さく言った瞬間、頭の中が真っ白になった。変なことを言っている自覚はある。でも、もう取り消せない。
沈黙。
怖くて顔を上げられない。やがて、彼が1歩近づいてくる気配がした。