優秀な後輩で私も嬉しく思うので、どうぞ『先輩離れ』してください
 シャワーを浴びた彼と入れ替わるように私もシャワーを借り、再びリビングに戻る。ソファーに座っている彼を後ろから見つめていれば、手招きをされた。隣に腰かければ、ぐっと距離が近くなる。今までだって何度も距離が近くなったのに、今日はやはり緊張してしまう。生娘でもないくせに、いい年して何やってるんだか。

「先輩、さっきの言葉って前から考えていてくれたんですか?」
「…うん。だって、何が欲しいか分からないし、私からあげられるものなんて限られてたから…」
「他の人にも同じことしてませんよね」

 ジロッと疑いの目を向けられる。予想外の疑いをかけられてしまい、慌てて全力で首を振る。

「してるわけないでしょ!? 一ノ瀬くんだけだって!!」

 思わず声が大きくなってしまい、自分でもはっとする。静まり返ったリビングに、その言葉だけがやけにくっきりと残った。

 彼はしばらく何も言わず、ただじっとこちらを見つめている。その視線から逃げるように目を逸らした途端、すっと顎に指がかかり、ゆっくりと正面へ向けさせられた。

「…本当に?」

 低く落とされた声が、思っていた以上に近い位置から響く。

「本当だってば……」

 さっきまでの勢いはどこへやら、言葉は小さくしぼんでいく。彼の目が真っ直ぐすぎて、嘘なんてつけるはずもない。

 そのまま見つめ合う時間が、やけに長く感じられた。数秒のはずなのに、呼吸の音や心臓の鼓動ばかりがやけに大きくなっていく。やがて彼は、ふっと小さく息を吐いた。どこか安心したような、けれどまだ何かを堪えているような曖昧な表情。

「なら、いいです。僕以外の人に同じことしてたら許さないところでした」

 その言葉にゾッとする。どう許さないかは聞かないでおこう。

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