優秀な後輩で私も嬉しく思うので、どうぞ『先輩離れ』してください
 流されるままに衣服を脱がされ、気づけば生まれたままの姿でベッドに横たわっていた。肌に触れるシーツのひんやりとした質感が、火照りきった身体にはかえって鮮烈で妙にくすぐったい。無防備な自分を晒している羞恥心と、これから始まることへの期待が混ざり合い、指先までが微かに震える。

「先輩、綺麗です」

 一ノ瀬くんが、うわ言のようにその言葉を繰り返した。熱の籠った視線が私の輪郭をなぞる度、肌の表面に粟立つような感覚が走る。ただの言葉なのにまるで直接触れられているかのように、内側からじわじわと熱がせり上がってきた。

「触りますね」

 低く宣告するような声が鼓膜を震わせる。体中のいたるところに羽毛のような軽いキスを落とされながら彼の手がそっと、けれど迷いなく太ももの内側へと這わされた。すでに蜜を湛えて蕩けきったそこへ自分のものではない熱い指先が滑り込んでくる。

「期待してくれてたんですね。可愛い」
「い、いわないで……っ」
「いいじゃないですか」

 逃げ場を塞ぐように覆いかぶさる彼の体温が、容赦なく私の思考を奪っていく。そのまま、指先で小さく尖った突起をクリクリと弄られた。脳を突き抜けるような甘い痺れ。反射的に身を捩れば、逃がさないという無言の意志を込めて、強い力で太ももを押さえつけられる。

「あ、……ぁ、いちのせ、くん……っ」

 不意に、彼の手が動きを止めた。耳元で聞こえる吐息がわずかに重く、湿り気を帯びる。潤んだ瞳を彷徨わせ、彼と視線を合わせた。
 いつもは冷静で、どこか涼しげな表情を崩さない後輩。けれど今の彼は、これまでに見たこともないほど、剥き出しの独占欲を瞳の奥に宿して私を見下ろしていた。

「あの、一ノ瀬くん…?」
「……『涼』って、呼んでくれませんか」

 それは、縋るような、けれど逃げ道を断つような響きを孕んでいた。

「名前で呼ばれたいです。先輩に、名前で僕を求めて欲しい」

 心臓の鼓動が耳の奥まで響く。彼が向けてくる真っ直ぐな執着に、私の心は恐怖に似た甘い喜びに支配されていった。

「り、……涼……くん」
「はい」

 名前を呼んだだけで、脳が痺れる。視界がさらに熱を帯びて歪んだ。彼は満足げに目を細めると再び指を深く、吸い付くような場所へと沈めていく。内側を掻き回すその動きは先ほどよりもずっと深く、容赦がなかった。

「……んんっ! あ、あぁ……っ」
「ははっ、本当に可愛い。中、すごく熱いですよ」

 内側からじりじりと広がる快感に、思考が白く塗りつぶされていく。彼の指が柔らかな壁をまさぐり、最も敏感な場所を執拗に掠めた。抗えない快楽が言葉をただの吐息へと変えていく。

「涼くん、まって、……おかしく、なる……っ!」
「いいですよ、おかしくなって。僕も、もう余裕なんてないんですから」

 空いた方の手で、私の髪を愛おしそうに掬い上げると額、鼻筋、そして最後に重なるように唇へ深いキスを落とされる。舌先が絡み合い、互いの唾液が混ざり合う湿った音が静かな部屋に溶けていく。密着した肌から伝わる彼の熱は、先ほどよりもずっと硬く、猛々しく膨れ上がっていた。

「はっ、」
「まだ、足りません」

 何度も角度を変えて貪るようにキスをされる。強引なのに慈しむようなその温度が、堪らなく愛おしい。

「先輩、好きですよ」
「……私のことも、名前で、呼んで」

 乱れた息をつきながら言葉を絞り出せば、彼は蕩けたような笑みを浮かべ、さらに深く私を抱き寄せた。

「紗良さん、愛してます」
「……私も、涼くんのこと愛してる」

 重なり合う体温と、互いの名を呼ぶ声が静寂の中に溶けていく。一ノ瀬くん__涼くんの腕の中で、私は彼という熱から逃れられないことを悟りながら、その深い愛執へと身を沈めていった。
 
 夜はまだ長い。
 
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