優秀な後輩で私も嬉しく思うので、どうぞ『先輩離れ』してください
「先輩があまりにもいい反応してくれるので、ちょっと悪戯心が出ちゃいました。いじめてすみません」

 何事もなかったかのように彼は立ち上がり、時計を見やった。あまりにも違いすぎる彼の雰囲気に放心していると、その長い指で壁掛け時計を示される。

「そろそろ寝ましょうか。もう24時回ってます」
「まだ24時じゃない」

 思わず抗議すると、むっとした表情で見下ろされる。

「僕を理由に生活習慣を乱されても困るので寝てください。寝室を貸しますので、先輩はちゃんとベッドで寝てくださいね」

 さっきまでのドロリとした空気はどこへやら。彼はクローゼットから毛布を出すと、それをソファーの隅に置いた。

「一ノ瀬くんはソファーで寝るの?」
「これだけ強引に招いたのに、先輩のことをソファーで寝かすわけないじゃないですか。シーツはさっき替えましたから、安心して使ってください」
「でも、」
「抗議は明日聞きますから寝てくださいね~」

 まるで子どもをあやすように、寝室へと追いやられてしまう。明日抗議をしては意味がないのだが、それは彼も分かった上で言いくるめているだろう。その雑さに顔を顰めるが、完全にスルーされる。

「おやすみなさい、先輩。……あ、鍵は閉めなくていいですよ。勝手に入ったりしませんので」

 最後の一言に、いたずらっ子のような笑みを添えられる。何か言い返すよりも早く、 パタンとドアが閉められた。

 1人残された寝室。彼の匂いが微かに残るふかふかのベッドに潜り込むと、さっきまで触れられそうだった熱が嘘のように、シーツがひんやりと冷たかった。

(……なんなの、あいつ)

 期待したわけじゃない。絶対にそんなことはないけれど。
 トクトクと未だにうるさい鼓動を抑えながら、私は静かに目を閉じた。
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