優秀な後輩で私も嬉しく思うので、どうぞ『先輩離れ』してください
 ふわりと鼻先をくすぐる香ばしい匂いで意識が浮上した。着慣れないスウェットの感触と自分の部屋とは違う空気に、一瞬だけ思考が停止する。けれど、すぐに昨夜の出来事が濁流のように思い出され、私はガバッと跳ね起きた。

(そうだ、一ノ瀬くんの家に泊まったんだ)

 スマホに表示された時間を見ると、時刻は朝の7時。特に寝すぎた時間ではないため安心しつつ、寝る前にアラームをかけていなかった事実に今更気づく。いつもはしないミスにため息を吐き、ボサボサの髪をなんとか整えてベッドを下りた。

「おはよう、一ノ瀬君」

 リビングへと続く扉を開けながら挨拶をすると、そこには既にネイビーの細身のパンツに白シャツを合わせた一ノ瀬君が立っていた。会社で見る服装に似てはいるが、幾分かラフな印象を受ける。

「おはようございます。よく眠れました?」
「おかげさまでぐっすりだったわよ。ベッド貸してくれてありがとう」
「いえいえ、寝られたようなら何よりです」

 ソファーで寝たはずの彼の方が、私よりもよっぽど顔色が良くてシャキっとしている。

(4歳差って結構大きいもんね…。若いって素晴らしい)

 こんなところで年を感じたくなかったが仕方ない。
 そんな考えを切り替えるようにテーブルを見ると、厚切りトーストと目玉焼き、さらには丁寧に淹れられたコーヒーが並んでいた。

「勝手に洋食にしましたが、もしかして和食が良かったとかありますか?」
「ううん、洋食大好きよ。ありがとう。本当、至れり尽くせりね」

 寝て起きた時に朝ご飯が用意されていることが有り難くて仕方ない。1人暮らしをすると朝の時間のなさを痛感するため、こんなにしっかりした朝ごはんは久々だ。今日が土曜日であることにも感謝しながら、昨日と同じように向かい合って座る。
< 21 / 64 >

この作品をシェア

pagetop