優秀な後輩で私も嬉しく思うので、どうぞ『先輩離れ』してください
私はフォークを置き、彼をじっと見つめた。
「一ノ瀬くんって、そういうところあるわよね」
「どういうところですか?」
「自分が周りからどう見られてるか、あんまり気にしてないところ」
彼は一瞬きょとんとした後、少し考えるように視線を上へ向けた。
「気にしてない、というより……気にしても仕方ない、ですかね」
困ったように答えられた声は、思ったよりも柔らかいものだった。その答えが意外で、曖昧な相槌しか打てない。手持ち無沙汰に運んだカルパッチョの酸味が口の中で解け、ワインが欲しくなるのをぐっと堪えた。
「僕が思うに、先輩は気にしすぎなんですよ。もっと自由でいいじゃないですか」
「そういう訳にもいかないのよ」
私の言葉に、今度は一ノ瀬君の方が曖昧な相槌を打った。でも意見を押し通して来ようとせず、上手い塩梅で引いてくれる。こういうところだ。距離感が絶妙に近くて、でも踏み込みすぎない。その線を、彼は無意識に見極めている気がする。
「……ねえ」
「はい」
「私たちが『息が合いすぎる』って言われるの、正直どう思う?」
少しだけ勇気を出した質問だった。彼はすぐには答えず、水の入ったグラスを長い指でゆっくり回す。光がガラスに反射して、揺れた。
「悪い気はしないです」
「…そう」
「はい。先輩と一緒に仕事できることを周囲に知らしめてる感があるので噂されるたびに気分がいいです」
「なにそれ」
思わず笑うと、彼もつられたように笑った。その表情は、会社で見るものより少しだけ柔らかい。徐々に見慣れつつある笑顔ではあるが、やはり急に見ると驚いてしまう。
何も言えずにいると、空気を読んだかのように運ばれてきたパスタの湯気が、私たちの間に立ちのぼったのだった。
「一ノ瀬くんって、そういうところあるわよね」
「どういうところですか?」
「自分が周りからどう見られてるか、あんまり気にしてないところ」
彼は一瞬きょとんとした後、少し考えるように視線を上へ向けた。
「気にしてない、というより……気にしても仕方ない、ですかね」
困ったように答えられた声は、思ったよりも柔らかいものだった。その答えが意外で、曖昧な相槌しか打てない。手持ち無沙汰に運んだカルパッチョの酸味が口の中で解け、ワインが欲しくなるのをぐっと堪えた。
「僕が思うに、先輩は気にしすぎなんですよ。もっと自由でいいじゃないですか」
「そういう訳にもいかないのよ」
私の言葉に、今度は一ノ瀬君の方が曖昧な相槌を打った。でも意見を押し通して来ようとせず、上手い塩梅で引いてくれる。こういうところだ。距離感が絶妙に近くて、でも踏み込みすぎない。その線を、彼は無意識に見極めている気がする。
「……ねえ」
「はい」
「私たちが『息が合いすぎる』って言われるの、正直どう思う?」
少しだけ勇気を出した質問だった。彼はすぐには答えず、水の入ったグラスを長い指でゆっくり回す。光がガラスに反射して、揺れた。
「悪い気はしないです」
「…そう」
「はい。先輩と一緒に仕事できることを周囲に知らしめてる感があるので噂されるたびに気分がいいです」
「なにそれ」
思わず笑うと、彼もつられたように笑った。その表情は、会社で見るものより少しだけ柔らかい。徐々に見慣れつつある笑顔ではあるが、やはり急に見ると驚いてしまう。
何も言えずにいると、空気を読んだかのように運ばれてきたパスタの湯気が、私たちの間に立ちのぼったのだった。