優秀な後輩で私も嬉しく思うので、どうぞ『先輩離れ』してください
「ただいま戻りました」
オフィスに戻り、余裕をもって自席に腰を下ろした瞬間のことだった。
プロジェクトメンバーの数人が和やかでありながらも好奇心を隠しきれない笑顔を浮かべて近づいてくる。その輪の中心にいるのは、いつも私のことを気にかけてくれている佐藤さんだ。
同期である彼女は常に明るく元気で、会議で煮詰まった時には何度もその朗らかさに救われてきた。しかし、今この時ばかりはその笑顔がやけに怖い。
「おかえりなさい、白石さん。待ってたわよ~」
「あ、はは…えっと、もしかして緊急の仕事とかありました?」
「もー、しらばっくれちゃって!そんなことじゃないわよ!」
仕事を『そんなこと』呼ばわりするのはどうかと思うが、私だって話を逸らすために仕事を持ち出したため何も言えない。潔く諦めて佐藤さんを始めとしたメンバーを見上げると、揃って満足そうな笑みを浮かべた。
「一ノ瀬くんとランチだったんでしょ? 2人でオフィスを出て行く姿、すごく絵になってたわよ!」
「えっ、あ、……いえ、その…」
「入社してからずっとクールな一ノ瀬君が、白石さんの隣だとあんなに表情が柔らかくなるなんてね。しかも、強引に腕まで引いちゃって。もしかして、いい感じなの?」
佐藤さんの言葉を皮切りに、周囲からも「実は前から気になってました!」だの、「もしかしてお付き合いされてるんですか?」だのと声が上がる。
責めるような空気は一切なく、むしろ「もしそうなら応援したい」という温かな温度感。それがかえって、私の動揺を誘った。
「違います違います!不健康な食生活を送っている私を見かねて、一ノ瀬君がお店を探してくれただけなんです!」
「もー、隠さなくてもいいのに」
クスクスと笑い声が広がる。どうしよう。否定すればするほど、怪しさが増している気がする。
どうにか打開策を見つけないと、と思った時だった、
「皆さん、先輩を困らせないでください」
どうやら席が離れている一ノ瀬君の元にまで声が届いていたらしい。彼は少し呆れたような表情でこちらに歩み寄り、場の空気を一瞬で落ち着かせるように口を開いた。その声は低く落ち着いていて、いつもの彼らしい冷静さがある。
けれど、
「いい感じなのか、という質問への答えについては……今はまだ『No』です」
そこまでは、まだよかった。
「僕が一方的に、先輩に振り向いてもらえるよう努力している最中なので」
オフィスに戻り、余裕をもって自席に腰を下ろした瞬間のことだった。
プロジェクトメンバーの数人が和やかでありながらも好奇心を隠しきれない笑顔を浮かべて近づいてくる。その輪の中心にいるのは、いつも私のことを気にかけてくれている佐藤さんだ。
同期である彼女は常に明るく元気で、会議で煮詰まった時には何度もその朗らかさに救われてきた。しかし、今この時ばかりはその笑顔がやけに怖い。
「おかえりなさい、白石さん。待ってたわよ~」
「あ、はは…えっと、もしかして緊急の仕事とかありました?」
「もー、しらばっくれちゃって!そんなことじゃないわよ!」
仕事を『そんなこと』呼ばわりするのはどうかと思うが、私だって話を逸らすために仕事を持ち出したため何も言えない。潔く諦めて佐藤さんを始めとしたメンバーを見上げると、揃って満足そうな笑みを浮かべた。
「一ノ瀬くんとランチだったんでしょ? 2人でオフィスを出て行く姿、すごく絵になってたわよ!」
「えっ、あ、……いえ、その…」
「入社してからずっとクールな一ノ瀬君が、白石さんの隣だとあんなに表情が柔らかくなるなんてね。しかも、強引に腕まで引いちゃって。もしかして、いい感じなの?」
佐藤さんの言葉を皮切りに、周囲からも「実は前から気になってました!」だの、「もしかしてお付き合いされてるんですか?」だのと声が上がる。
責めるような空気は一切なく、むしろ「もしそうなら応援したい」という温かな温度感。それがかえって、私の動揺を誘った。
「違います違います!不健康な食生活を送っている私を見かねて、一ノ瀬君がお店を探してくれただけなんです!」
「もー、隠さなくてもいいのに」
クスクスと笑い声が広がる。どうしよう。否定すればするほど、怪しさが増している気がする。
どうにか打開策を見つけないと、と思った時だった、
「皆さん、先輩を困らせないでください」
どうやら席が離れている一ノ瀬君の元にまで声が届いていたらしい。彼は少し呆れたような表情でこちらに歩み寄り、場の空気を一瞬で落ち着かせるように口を開いた。その声は低く落ち着いていて、いつもの彼らしい冷静さがある。
けれど、
「いい感じなのか、という質問への答えについては……今はまだ『No』です」
そこまでは、まだよかった。
「僕が一方的に、先輩に振り向いてもらえるよう努力している最中なので」