優秀な後輩で私も嬉しく思うので、どうぞ『先輩離れ』してください

もはやこれはデートでは?

 約束の土曜日の朝。
 
(結局、断れないまま今日を迎えちゃった…)

 集合場所である駅で電車を降りた私は、本日何度目か分からないため息をついた。集合時間に余裕をもって来たものの、心には微塵も余裕がない。

 一応それなりの格好をした方が良いかと思い、柔らかなアイボリーのロングワンピースを身に付けている。ある程度の落ち着きは欲しいけれど、地味にはなりたくない。そんな気持ちからの選定だった。
 いつものパンツスーツではなく、女性的な服装。似合っているか分からないが、笑われたらそれまでだろう。1つのネタとして昇華すればいい。

 そんな自虐的な気持ちで歩くと、ふと人目を引く人が立っていた。

 (……嘘でしょ)

 そこにいたのは、少しオーバーサイズのチャコールグレーのカーディガンを羽織り、インナーに質の良さを感じさせる白Tシャツを合わせた一ノ瀬くんだった。いつものキッチリとしたスーツ姿とのギャップに、思わず見惚れてしまう。
 前髪を少し下ろしたその姿は、オフィスで見せる冷徹な雰囲気とは対照的にどこか柔らかく、それでいて似合っている。すれ違う女性たちが思わず振り返るのも無理はない。

 これだけ視線を集めている人に声を掛けるのが憚られる。単純に、「え、あの人と待ち合わせてたの?」と女性陣から思われるのがしんどい。赤の他人だが、府の感情を向けられて嬉しい人はいないだろう。

 そんな言い訳じみた言葉をぐるぐる考えていた時、スマホから顔を上げた彼と思いきり目が合った。思わず半歩後退るも、彼はニコニコした顔で足早に近づいてきた。まるで、私が逃げようとしたことを察したかのような笑顔だ。

「おはようございます、先輩」
「お、おはよう…」

 上機嫌に見下ろされたまま、挨拶を返す。
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