優秀な後輩で私も嬉しく思うので、どうぞ『先輩離れ』してください
 帰り道、他愛もない会話が途切れずに続いた。今日巡った場所のことから昨日見たテレビのことまで、留めなく広がっていく。それでもどこか話し足りなくて、示し合わせたわけでもないのに、気づけば近くの公園へと足を向けていた。

 子どもの姿など、あるはずもない時間帯。風に揺れることもない遊具が、しんとした闇の中で影を落としている。その光景を横目に、私たちは街灯の下のベンチへ腰を下ろした。白い灯りが、互いの横顔を柔らかく照らす。

「飲み物、何か買って来ましょうか?」
「ううん。大丈夫よ。ありがとう」

 即座に返すと、彼は小さく頷いた。
 こんな何でもない時にまで気を配ってくれるなんて、本当に気の利く後輩だ。その気遣いが、少しだけくすぐったい。

「今日は本当にありがとうね」

 風が心地よく、静かな時間が流れる。何度目かになるお礼を改めて伝えれば、小さく首を振られた。それから、一ノ瀬君は真面目な顔になった。真っすぐな目には、私しか映っていない。

「先輩」

 いつもより重い声音に、胸の奥が震える。この後に言われる言葉が分かってしまう。
 街灯の光が彼の横顔を淡く照らしていた。昼間の柔らかな表情とも、仕事中の鋭さとも違う、覚悟を決めた人の顔だった。

「今日、誕生日を祝いたかったのは本当です。でも、それだけではありません」

 分かっている。
 分かっているのに、知らないふりをしたくなる。

 それでも、彼から目を逸らせない。

「僕は、先輩のことが好きです」

 昼間の店内よりも、はっきりと。逃げ道を塞ぐような、真っ直ぐな言葉だった。
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