優秀な後輩で私も嬉しく思うので、どうぞ『先輩離れ』してください

「尊敬していますし、憧れています。でも、それ以上に……1人の女性として好きです」

 鼓動が速くなる。耳の奥で自分の心音が反響して聞こえた。

「仕事の時の真剣な顔も、今日みたいな楽しそうな顔も、全部そばで見ていたいんです。僕のこと、もう苦手でも嫌いでもないんじゃないですか?」

 真剣な瞳だった。
 揺れがない。冗談も含みもない。

 だからこそ、怖い。

「……確かにもう、一ノ瀬君にマイナスのイメージは抱いてないわよ。でも、…恋愛関係となると、また違うじゃない」

 反射的に言葉が出た。
 一ノ瀬君の目が僅かに揺れる。動揺とも悲しみとも取れるそれが、あまりにも痛ましい。そんな表情をさせてしまっている原因が私であることが、他人事のように酷く恨めしかった。

「昼間のカフェでも伝えたけれど、私は可愛くないし、仕事優先だし、あなたが思ってるほど余裕のある人間じゃないの」
「だとしても、先輩がいいんです」

 即答だった。

「そもそも、可愛くないなんて思ったことありませんし、仕事優先なのも分かってます。余裕がない時は、僕が先輩を支えます」
「簡単に言わないで」

 思わず語気が強くなる。口先だけの言葉を信じたくない。
 一ノ瀬君が、軽い気持ちで出まかせを言う人ではないことは分かっている。分かっているけれど、そんな言葉を簡単に受け取れるほど、私は恋愛に夢を見られない。

 信じたい気持ちと疑ってしまう臆病さが、胸の奥でせめぎ合う。

 分かっているはずなのに。
 彼が真剣だと、ちゃんと知っているのに。

 それでも、怖い。
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