優秀な後輩で私も嬉しく思うので、どうぞ『先輩離れ』してください
 今日、彼と過ごした時間は確かに楽しかった。
 本を選び合って、絵を見て、名前を呼ばれて、あんな風に誕生日を祝われて、胸が温かかった。その温もりが遠ざかってしまうのは、酷く寂しく感じる。

「……一ノ瀬君」
「はい」
「私、本当に不器用よ?」
「知ってます」
「甘えるのも下手だし、可愛げもない」
「そこが可愛いんじゃないですか」

 盲目的な言葉に、少しだけ笑ってしまう。

「それでも、…先輩のことが好きです」

 迷いのない言葉。
 こんなに真剣に想われているのだから、拒絶する選択肢はもうなかった。

「……お試しでもいいなら」

 自分でも、驚くほど小さな声だった。

「え?」
「……いきなり恋人、とかは無理。かといって1ヵ月考え続けるのは煮詰まりそう。だから、」

 鼓動が早すぎて、息が苦しい。

「少しだけ。一ノ瀬君に私の時間をあげる。だから、一ノ瀬君の時間を私に頂戴?」

 一瞬、理解が追いつかなかったように固まっていた一ノ瀬君の表情が、ゆっくりと崩れる。
 信じられないものを見るみたいに目を見開いて、それから、どうしようもなく嬉しそうに笑った。

「…本当に?」
「告白の撤回、今なら間に合うわよ」
「嫌です。絶対にしません」

 即答だった。次の瞬間、彼は深く頭を下げた。

「ありがとうございます。絶対に後悔させません」
「大げさ」
「それだけ本気なんです」

 顔を上げた彼の目は、少し潤んでいるようにも見えた。
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