優秀な後輩で私も嬉しく思うので、どうぞ『先輩離れ』してください
「…お疲れ様でした」

 誰にともなく小さく告げて、私は逃げるようにオフィスを後にした。

 視界の端には、まだ自分のデスクで淡々とキーボードを叩く一ノ瀬くんの姿があった。いつもなら彼よりも早く帰るなんてことあり得ないのだが、今の私には彼に声をかける勇気も、彼と目を合わせる自信もなかった。
 
 帰路につく中、ふとガラスに映った自分と目が合った。
 そこには、役員に褒められたはずの人間とは思えないほど、酷く疲弊した顔をした自分がいた。残業続きの時でも、ここまで酷い顔はなかなか見ない。
 
 思わず立ち止まって、まじまじと見つめてしまう。

 (「一ノ瀬くんがリーダーでも良かった」か…。その通りよね)

 耳にこびりついて離れないその言葉が、心臓の奥をじりじりと焼く。
 誰のせいでもない。ただの事実に違いない。
 
 それでも、この心の空虚はどうすればいいのだろうか。
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