優秀な後輩で私も嬉しく思うので、どうぞ『先輩離れ』してください
 コンビニで適当なサラダと飲み物を買い、真っ暗な部屋に帰る。着替える気力も起きず、吸い寄せられるように湯張りのボタンを押した。せめて、この冷え切った思考を温めたかった。

 湯が溜まるまでの間にサラダを食べる。それでも、数口食べただけでもうフォークは進まなかった。ため息と共に蓋をする。それを咎める人は、この部屋にはいなかった。

 それからしばらく、何をするわけでもなくぼーっとした。このまま寝てしまおうか、とすら思った矢先、湯が張り終わった音楽が聞こえた。急な音楽に驚いたはずなのに、何故か身体は反応しきれなかった。

(そうだ、お風呂に入らないと)

 何も考えられないまま、ふらふらと浴室に向かう。
 適当に服を脱ぎ捨てると、沈み込むように湯に体を沈める。湯気で白く霞む視界の中、揺れる水面に自分の顔が映っていた。

「……情けないな」

 水面に映る顔は、波紋に揺られて酷く歪んでいる。

 彼に頼ることを覚え始めた自分。
 彼に振り回されつつも、日常を侵食されることを楽しいと思ってしまった自分。

 そんな甘えがあったから、あんな言葉に傷つく隙を与えてしまったのではないか。以前の自分だったら、傷つくはずがなかった。きっと悔しく思う気持ちを原動力に、今日も残業をしていたことだろう。

 彼が隣にいればいるほど、世間は私ではなく彼を見る。
 私は、彼の圧倒的な実力を引き立てるための、ただの器でしかないのだろうか。

 20代の全てを捧げて積み上げてきたはずのキャリアが、砂のように脆く崩れていく音がした。
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