優秀な後輩で私も嬉しく思うので、どうぞ『先輩離れ』してください
 翌朝、酷い頭痛と共に、重い瞼をこじ開けるようにして目を覚ました。鳴り響く電子音に顔をしかめる。床に落ちたスマホから、けたたましくアラームが鳴っていた。

 ぼんやりとした頭で手を伸ばし、やっとのことでそれを止める。そこでようやく、毎日の習慣を思い出した。起きた時、必ず翌日のアラームを設定しておく小さな癖。今朝ばかりは、それを習慣化した過去の自分に心から感謝した。

 同時に、昨夜の記憶がゆっくりと浮かび上がってくる。髪も乾かさず、ベッドにも辿り着けないまま、力尽きるように眠ってしまったことを。身体の奥に残るだるさと、鈍く脈打つような頭痛がそれを物語っていた。

(仕事、行かないと)

 自分に言い聞かせ、重たい身体を無理やり起こす。足元が少しふらつきながらも、とりあえず洗面台へ向かった。
 冷たい水で顔を洗い、ゆっくりと顔を上げる。鏡に映っていたのは、昨夜の葛藤をそのまま引き摺ってきたような、生気のない女だった。目の下にはうっすらと影が落ち、髪も寝癖のまま乱れている。

 思わず、小さく息を吐く。いつもなら時間をかけて整えるメイクも、今日はそんな余裕はなかった。化粧水を叩き込み、最低限のベースを整え、形だけ眉を描く。鏡の前に立つ時間は、普段の半分にも満たない。できることなら、今日は休みたかった。

 けれど、それができないのが社会人だ。体調も気持ちも、理由にはならない。

(大丈夫……。大丈夫……。)

 鏡の中の自分に言い聞かせるように、何度も心の中で繰り返す。そうでもしないと、この場から動けなくなりそうだった。

 悲鳴を上げる身体を叱咤しながら、なんとか身支度を終える。バッグを肩にかけ、玄関のドアを開ける。

 朝の空気は、思ったよりも冷たかった。
 その冷たさに少しだけ目が覚めた気がして、彼女は小さく息を吐き、重い足取りのままオフィスへと向かった。

< 58 / 69 >

この作品をシェア

pagetop