優秀な後輩で私も嬉しく思うので、どうぞ『先輩離れ』してください
「謝らないでください」
即座に返ってきた言葉は、思ったより強かった。
「そんな言葉が聞きたいわけじゃありません」
顔を上げると、彼がまっすぐこちらを見ていた。いつもの余裕や冷静さはどこにもない。壊れ物に触れるような、痛々しいほど切実な表情だった。
「倒れた先輩を医務室に連れていったんですが、なかなか熱が下がらず、目も覚まさないままでした。それで、会社に残すより僕が看病した方が確実だと思い、勝手ながら連れてきたんです。全部、僕がしたくてしたことなんです」
彼は少しだけ視線を落とす。
「だから、先輩が引け目を感じないでください」
この後輩はどこまで優しいのだろう。自分のことを情けないと思う気持ちよりも、彼への感謝の気持ちの方が大きくなった。
「……ありがとう。でも、仕事は?プロジェクトだって、私たちがいないと……」
「安心してください。先輩と僕は、今日明日揃って有給です。社内の共有カレンダーにも入力済みです」
とんでもないことをさらりと言われた。一瞬理解できなかったが、遅れて事態の大きさを認識する。
「えっ!?2人揃って有給なんて…そんなの周りに何て思われるか!!」
思わず声が大きくなる。慌てる私を見て、一ノ瀬くんはふっと口角を上げた。その笑みには、ほんの少しだけ「してやったり」という色が混じっている。
「それがですね」
嫌な予感がする。
「皆さんが妙に気を利かせてくれまして。『一ノ瀬くんの言ってた、努力してる最中ってこういうことね』とか『リーダーを支えるのはサブの役目よ、しっかりね』と言われ、佐藤さんを中心に皆さんに背中を押していただきました」
私は枕に顔を埋めて絶叫したくなった。
(佐藤さーん!! 何してくれてるんですか!!!)
あの日のランチ後の一ノ瀬くんの爆弾発言。
「一方的に努力している最中」という言葉で終わっていたはずの同僚たちの認識は、この1件できっと大きく変わっただろう。たしかに今の私たちは『仮恋人』という特殊な関係だけれど、それは口外していない。隠していたものが、音を立てて崩れていく気がする。身悶えする私を見て、一ノ瀬くんは喉の奥でくすくすと笑った。
「まあ、いいじゃないですか。今は、自分の体のことだけ考えてください」
彼はそう言って、マグカップをテーブルに置いた。
即座に返ってきた言葉は、思ったより強かった。
「そんな言葉が聞きたいわけじゃありません」
顔を上げると、彼がまっすぐこちらを見ていた。いつもの余裕や冷静さはどこにもない。壊れ物に触れるような、痛々しいほど切実な表情だった。
「倒れた先輩を医務室に連れていったんですが、なかなか熱が下がらず、目も覚まさないままでした。それで、会社に残すより僕が看病した方が確実だと思い、勝手ながら連れてきたんです。全部、僕がしたくてしたことなんです」
彼は少しだけ視線を落とす。
「だから、先輩が引け目を感じないでください」
この後輩はどこまで優しいのだろう。自分のことを情けないと思う気持ちよりも、彼への感謝の気持ちの方が大きくなった。
「……ありがとう。でも、仕事は?プロジェクトだって、私たちがいないと……」
「安心してください。先輩と僕は、今日明日揃って有給です。社内の共有カレンダーにも入力済みです」
とんでもないことをさらりと言われた。一瞬理解できなかったが、遅れて事態の大きさを認識する。
「えっ!?2人揃って有給なんて…そんなの周りに何て思われるか!!」
思わず声が大きくなる。慌てる私を見て、一ノ瀬くんはふっと口角を上げた。その笑みには、ほんの少しだけ「してやったり」という色が混じっている。
「それがですね」
嫌な予感がする。
「皆さんが妙に気を利かせてくれまして。『一ノ瀬くんの言ってた、努力してる最中ってこういうことね』とか『リーダーを支えるのはサブの役目よ、しっかりね』と言われ、佐藤さんを中心に皆さんに背中を押していただきました」
私は枕に顔を埋めて絶叫したくなった。
(佐藤さーん!! 何してくれてるんですか!!!)
あの日のランチ後の一ノ瀬くんの爆弾発言。
「一方的に努力している最中」という言葉で終わっていたはずの同僚たちの認識は、この1件できっと大きく変わっただろう。たしかに今の私たちは『仮恋人』という特殊な関係だけれど、それは口外していない。隠していたものが、音を立てて崩れていく気がする。身悶えする私を見て、一ノ瀬くんは喉の奥でくすくすと笑った。
「まあ、いいじゃないですか。今は、自分の体のことだけ考えてください」
彼はそう言って、マグカップをテーブルに置いた。