優秀な後輩で私も嬉しく思うので、どうぞ『先輩離れ』してください
 お風呂から上がると、体の芯までじんわりと温まっているのが分かった。さっきまで感じていた重さが、少しだけ軽くなっている。

 いつの間に用意されていたのか、新品らしき服を着て脱衣所の扉を開けると、外で一ノ瀬くんが壁にもたれていた。手にはスマホを持っているものの、触った様子は見当たらない。

「おかえりなさい。大丈夫でしたか?」
「うん、ありがとう。さっぱりした」
「それは良かったです」

 彼は立ち上がると、ぐっと伸びをした。ゆっくりと手を引かれ、脱衣所の中に連れ戻される。

「え、何?」
「髪を乾かしちゃいましょうか。いつ寝てもいいようにした方が楽でしょう」

 その言葉と共に、棚からドライヤーを取り出す。椅子がないため立ったままだったが、気遣われながら背後でドライヤーの音が鳴り始める。温かい風が髪の間を通り抜けた。
 彼の指が、そっと髪をすくい上げる。その動きは思ったよりも丁寧で優しかった。

「前に乾かしてくれたも思ったけど、髪乾かすの慣れてるの?」
「まさか。人の髪を乾かすのは先輩が初めてですよ」
「本当?」
「本当です。だから、不快な部分があれば隠さずに言ってくださいね」

 指先は驚くほど慎重で、まるで壊れ物を扱うみたいだった。

 数分後、ドライヤーの音が止まる。

「はい、終わりましたよ」
「ありがとう」

 片付けをしようとする一ノ瀬君の邪魔にならないように壁際に寄る。そのまま息を吐けば、まだ熱っぽいのかふらっとしてしまう。そんな様子を目敏く見つけた彼は、片付けの手を止めてしまった。

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