優秀な後輩で私も嬉しく思うので、どうぞ『先輩離れ』してください
 部屋が静かになった瞬間、急に寂しさが押し寄せてきた。さっきまで誰かが近くにいた安心感。それが消えると、どうしても落ち着かない。

(眠たいことには違いないし、とりあえず寝ないと体調も良くならないよね)

 そう思って目を閉じる。でも、なぜか頭は活発に動いてしまう。
 廊下から聞こえるスリッパの音や浴室から聞こえるシャワーの音。人がいることに安心感を覚えると共に、その安心感に触れられないことがもどかしかった。熱が出ているせいか、やけに人肌寂しい。

 しばらく、真っ暗な中で天井を見つめる。
 ほんの少しのプライドと比にならないぐらい肥大した孤独感。耐えられなってベッドから重い体を起こしたのは、時計が0時を跨ぐぐらいの時だった。
 体を起こせば、やはり視界が歪む。肩で息をしてしまう程、身体が鉛のように重たかった。それでも、何とか立ち上がり、ゆっくりと寝室を出た。

 恐る恐るリビングへと続く扉を開ける。
 どうやらまだ起きているらしく、ソファーに座って本を読んでいる一ノ瀬君を見つけた。いつもは見ない眼鏡姿が意外で、気づけば息を潜めて見惚れてしまった。

 どれぐらいそうしていただろう。どうやら視線に気づいたらしい一ノ瀬君が、急にこちらを向く。そして、驚いたように目を見開いた。

「先輩!? ちょ、どうしたんですか?」

 パタパタとスリッパを鳴らして歩いて来てくれた彼はよほど驚いたのか、目を瞬いている。あまりにも驚かれるものだから、思わず笑ってしまった。

「ふふっ、驚きすぎよ」
「いや…。寝てるはずの人が廊下からこっち見てたら驚きますって」

 言い訳のように言う彼が珍しくて可愛らしい。クスクス笑っていれば、一ノ瀬君は呆れたように見下ろしてきた。

「で、どうしたんですか?」
「あー…、えっと…」

 急に先程までの余裕がなくなってしまう。頭が鮮明になると同時に、今から言おうとしていることがやけに喉に引っかかる。

(柄じゃないのは分かってる…! 分かってるから!!)

 そんな言い訳を心の中で呟きながら、意を決して彼を見上げる。

「さ、寂しいからさ、…その、一緒に寝てくれない、かな?」

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