優秀な後輩で私も嬉しく思うので、どうぞ『先輩離れ』してください
 そんなやり取りの後、リビングに行きたいという要望は何とか通り、リビングのテレビで映画を観ることになった。画面には、様々なジャンルの映画のタイトルが並んでいる。

「好きな映画を選んでもらって構いません。これ、リモコンです」

 リモコンを受け取りながら、隣に座る彼を見上げる。映画を観る気がないのかと思ったが、その手には何もない。どうやら、私の観たい映画をそのまま観るつもりらしい。

「折角なら、一ノ瀬君も一緒に楽しめる映画にしない?」
「僕の好みはいいですよ。先輩の好きなものを選んでください」
「そんな寂しいこと言わないでよ。ほら、おすすめとかないの?」

 半ば無理矢理リモコンを渡せば、難しそうな顔をされる。しばらく操作した後に辿り着いたのは、落ち着いた色味のパッケージが並ぶ画面だった。派手さはないが、どれも評価が高そうな作品ばかりだ。洋画が多いらしく、知らない作品がほとんどだった。

「こういうジャンル、よく観るの?」

 思わず聞けば、彼は少しだけ視線を泳がせた。それから小さく頷かれる。

「たまに、です。気を抜いて観れるものより、ちゃんと集中できるやつの方が好きで」
「へぇ」

 彼が選んだのは、静かに物語が進んでいくタイプの映画だった。大きな音も、激しい展開もない。それでも、どこか目が離せない不思議な引力がある。物語が進むにつれて、部屋の空気が変わっていく。

 ソファーに並んで座っている私たちの距離は近すぎず遠すぎず、けれど意識すればすぐに触れられる程度には近い。

(なんでこんなに意識してるんだろ)

 自分でも呆れるくらい、落ち着かない。そっと横目で様子を窺うと、一ノ瀬君は真剣な顔で画面を見つめていた。さっきまでのやり取りなんてなかったみたいに、いつも通りの落ち着いた表情だ。

(ずるい)

 こっちはこんなに振り回されているのに。一ノ瀬君は私のことをずるいと言うが、私だって一ノ瀬君のことをずるいと思っている。
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