優秀な後輩で私も嬉しく思うので、どうぞ『先輩離れ』してください
しばらくエンドロールを眺めていたが、それもやがて終わりを迎える。画面が暗転した後も、すぐに動く気にはなれなかった。物語の余韻がまだ胸の奥に残っていて、さっきまで観ていた世界とこの部屋の空気とが上手く切り離せないまま静かに重なっているような感覚が続いている。
そんな静けさを破るように、不意に彼が立ち上がった。
「そろそろ、夕飯の準備しますね」
その一言でゆっくりと現実に引き戻される。
「私も手伝うよ」
ほとんど反射的にそう口にしていた。何かしていないと落ち着かない気がしたからかもしれない。けれど彼は、予想通りと言うべきか、すぐに首を横に振る。
「却下です」
「またそれ」
「病人は大人しくしててください」
その声音は柔らかいのに有無を言わせない響きがある。強引というほどではないのに、自然と従わされてしまうのが少し悔しい。
「ここで大人しくしてるか、ベッドに戻るか。どっちがいいですか?」
「……ここにいる」
「分かりました」
短く、それだけ。頷くと、彼はそのままキッチンへ向かっていった。迷いのない足取りといつも通りの背中。さっきまで同じブランケットに入っていたのが嘘みたいに、ほんの少しだけ距離を感じる。
ぼんやりとその背中を見送ってから視線を落とす。膝にかけたままのブランケットを、無意識に指先で引き寄せた。まだ、ほんのりと温かい気がする。それが自分の体温なのか、それともさっきまで隣にあった彼のものなのかは分からないまま、指先でそっと縁をなぞった。
映画の余韻と隣にいた時の感覚。そのどちらもがゆっくりと混ざり合って、胸の奥に静かに広がっていく。満たされているはずなのに、どこか落ち着かない。それでも、その不安定ささえ今は嫌ではなかった。
やがてキッチンの方から音が聞こえ始める。包丁がまな板を叩く規則的な音、水の流れる音、食器が触れ合う小さな音。さっきまでの静寂とは違う生活の気配。そのどれもが妙に現実的で、なのにどこか遠く感じる。まるで映画の続きを別の形で見ているみたいだった。
ソファに身を預けたまま、ゆっくりと息を吐く。こうして誰かの生活の音をただ聞いているだけの時間なんて、いつ以来だろうと考えかけてやめた。
代わりにそっと目を閉じる。キッチンから聞こえる音と、体に残るわずかな熱。その両方に包まれるようにして、意識が少しずつほどけていく。このまま眠ってしまってもいいかもしれない。そんなことを思いながら、静かにまぶたを伏せた。