優秀な後輩で私も嬉しく思うので、どうぞ『先輩離れ』してください
 穏やかな食事の時間が流れる。今日観た2本の映画の感想を語り合いながら、ゆっくりと食事を進める。

「一ノ瀬君ってさ、底なしに優しいよね」

 そのまま言うと、ほんの一瞬だけ動きが止まった。

「…どういう意図で言ってます?」
「意図も何もないよ。一ノ瀬君のことを苦手だと思ってた時があったことは認めるけど、何で苦手だったのかもう思い出せないぐらいには絆されちゃったんだなって、改めて思ったの」

 そう言い切ると、彼はわずかに視線を落とした。それから、複雑そうな顔をして箸を進める。

「まーた誤解されるようなこと言って。ほんと、先輩のことが心配になりますよ」
「なにそれ」

 思わず笑ってしまう。

「聞きたいですか?」
「聞いてもいいの?」
「おすすめはしません」
「…じゃあいいや」
「英断ですね」

 さっきまでよりも、ゆっくりと食事を続ける。気づけば、さっきよりも体が軽くなっていた。雑炊の温かさが、じんわりと体の奥に残っている。

「ごちそうさまでした」

 完食すると同時に小さく手を合わせると、一ノ瀬君がこちらを見る。穏やかな目が手元の空っぽの皿を捉えると、嬉しそうに細められた。

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