優秀な後輩で私も嬉しく思うので、どうぞ『先輩離れ』してください
外に出ると、夜の空気がひんやりと頬に触れる。でも、その冷たさは不快ではなかった。むしろ、火照った体を少しずつ落ち着かせてくれるようで、ほんのりと心地いい。
隣には一ノ瀬君がいて、一定の距離を保ったまま歩いている。街灯に照らされた道を並んで歩きながら、足音だけが静かに重なる。会話がなくても気まずくないのが、不思議だった。
しばらくしてから、ぽつりと口を開く。
「この2日間、本当にありがとう」
「どういたしまして」
視線は前に向けたまま、なるべく何でもないように言ったつもりだった。一ノ瀬君の返事は、いつも通りあっさりしている。
「迷惑かけちゃったからさ、また今度お礼させてよ」
「迷惑ではありませんでしたよ。むしろ、役得でした」
その声は落ち着いていて変わらない調子なのに、続いた言葉に思わず足が止まりそうになる。横を見ると、一ノ瀬君は前を向いたまま、ほんの少しだけ口元を緩めていた。
「役得?」
「はい。先輩のこと、2日間も独占できたので」
「ん?」
一瞬、意味が追いつかない。良い笑顔でVサインを向けてくる一ノ瀬君の顔を見つめてしまう。
「ま、冗談ですよ」
「ちょっと!」
抗議するように声を上げると、彼は小さく笑った。
「半分くらいは本気ですけどね」
「どっちなのよ、それ」
「どっちでしょうね~」
呆れたように言いながらも、顔が熱くなるのが分かる。からかわれているはずなのに、嫌な気はしない。むしろ、その言葉が妙に胸に残る。