優秀な後輩で私も嬉しく思うので、どうぞ『先輩離れ』してください

どちらの彼も受け止める

 翌朝。私は鏡の前で、いつもより少しだけ明るい色のリップを引いた。
 体調はもう問題ない。むしろ、ここ数日で溜まっていた霧がすっかり晴れたみたいに、頭の中が驚くほどすっきりしていた。

 パンプスを鳴らしながら、オフィスのドアを開ける。

「おはようございます!」

 いつもより少しだけ、晴れやかな声で挨拶をした。

 その瞬間、フロア中の視線が一斉にこちらへ向いた。

 心配そうな顔。
 ニヤニヤと笑いをこらえている顔。
 そして、「待ってました」と言わんばかりの佐藤さんの顔。

「あ、白石さん! もう大丈夫なの? 相当体調悪かったみたいだけど…」

 佐藤さんが駆け寄ってきて、私の肩をぽんぽんと叩く。その目は明らかに、私の背後にいるはずの看病係を探していた。私は思わず苦笑する。

「はい、おかげさまで。しっかり休ませていただいたので、今日からまたバリバリ働きます」

 そして、フロアの皆に向かって頭を下げた。

「皆さん、ご迷惑をおかけしました」

 すると、あちこちから声が上がる。

「良かったー」
「無理しないでね」
「ほんと心配したんだから」

 その温かい言葉に、改めて感謝の言葉を言おうとした時、後ろから聞き慣れた声が聞こえてきた。

「おはようございます、先輩」
「おはよう、一ノ瀬君」

 振り返ると、いつも通りの一ノ瀬君が立っていた。スーツに身を包み、コンタクトをつけている彼は会社で見慣れた姿。それでも、どこか心配の色を瞳の奥に滲ませていた。

「体調は大丈夫ですか?」
「ええ。それに、色々吹っ切れたみたい」
「それは良かったです」
「ありがとう。…だから、見返すわよ」

 そう言えば、一ノ瀬君は嬉しそうに大きく頷いた。
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