優秀な後輩で私も嬉しく思うので、どうぞ『先輩離れ』してください
 背後では、佐藤さんたちのひそひそ声が聞こえる。

「ねえ、やっぱりあの2人……」
「雰囲気変わったわよね」
「でしょ? 絶対何かあったって」

 小声で盛り上がっている。

(やっぱり、噂されるわよね)

 ちらりと一ノ瀬君を見ると、彼は隠すように苦笑していた。どうやら、あの会話はしっかり耳に届いているらしい。

「…噂、広がりそうですね」
「止めても無駄でしょ、こういうのは」

 肩をすくめて返すと、一ノ瀬君は少しだけ目を細めた。

「困りますか?」
「ううん。別に」

 本音だった。むしろ、少しだけくすぐったくて、心地よいBGMみたいに感じる。

「仕事に支障が出なければ、それでいいわ」
「…そうですね。問題ありません」

 そう言って、彼はいつも通りの落ち着いた表情に戻る。その切り替えの速さが、いかにも一ノ瀬君らしい。

「じゃあ、始めましょうか」
「はい」

 軽く頷き合い、私たちはそれぞれの席へ向かった。
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