優秀な後輩で私も嬉しく思うので、どうぞ『先輩離れ』してください
 会議が始まれば、私は迷いなく指示を出す。

「このデータ、最新の競合分析をベースに修正してもらえるかしら」
「分かりました。該当箇所、今すぐ反映します。ついでに前データからの推移も起こしておきます」
「ありがとう」

 一ノ瀬君がすぐに資料を展開する。

「それと、こっちのターゲット再設定に関してだけど、」
「念のため、仮説を3パターン用意しています。どれにしましょうか?」

 言葉を最後まで言い切る前に、次の資料が差し出される。私の意図を、まるで最初から分かっていたみたいだ。補足説明もデータ整理も、全てが完璧なタイミングだった。

 以前の私なら、その才能に焦りを感じていたかもしれない。
 追い越されるんじゃないかと、不安になっていたかもしれない。

 でも今は違う。

(怯える必要なんてない)

 彼は脅威じゃない。
 私の、最強の味方だ。

 ふと視線を向けると、一ノ瀬君もこちらを見ていた。一瞬だけ、目が合う。言葉はなくても、伝わる。

 『任せてください』
 
 そう言われた気がした。私は小さく頷く。それで十分だった。彼の力を引き出し、チームを動かし、結果を出す。それがリーダーである私の役目。

 迷いも。
 嫉妬も。
 羨望も。

 全てを力に変えて。
 私はもう一度、前を向いた。
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