優秀な後輩で私も嬉しく思うので、どうぞ『先輩離れ』してください
「__プライベートでも、って思いますよね?」
軽口の延長のようなその一言が、場の空気を少しだけ変えた。笑いを含んだまま、けれど確実に興味の矛先が絞られていく。
「それに便乗して聞いちゃうけどさ。あの看病有給の件、結局どうなの?」
ニヤニヤとした表情で身を乗り出してきた佐藤さんの一言に、周囲の手がぴたりと止まる。
「ぶっちゃけ、もう付き合ってるんでしょ?」
一瞬で視線が集まった。好奇心を隠そうともしない眼差しが、私と一ノ瀬くんを交互に射抜く。私は小さく息を吐き、ジョッキを口元へ運んだ。わざと間を置くように一口飲み、それから静かに口を開く。
「付き合ってません」
はっきりと言い切る。
「あれは、一ノ瀬君が甲斐甲斐しく面倒を見てくれただけです。私は1人暮らしですし、きっと放っておけなかったんだと思いますよ」
感情を挟まず、あくまで事実として線を引く。
『仮恋人』などと余計なことを口にすれば、その先に待っている面倒は目に見えている。それなら、一ノ瀬くんには少し申し訳ないけれど、ここは否定で押し切るのが1番だ。しかし、それで収まらないのがこのメンバー。
「ええー、またまた!」
「絶対嘘ですよね?」
「あんなにいい雰囲気なのに?」
案の定、同僚たちは面白がるように騒ぎ立てる。逃げ場のない空気に、さすがに1人では捌ききれないと判断して、横目で隣に座る一ノ瀬くんへと視線を送った。
しかし、その視線を受けた彼はなぜか楽しそうに肩をすくめるだけだった。助けるどころか、むしろこの状況を歓迎しているようにすら見える。
「皆さん、聞こえました?」
白々しいその声に、嫌な予感が背筋をなぞる。
「今の僕の立ち位置、こんな感じなんですよ」
周囲がきょとんとした顔を向ける。まずい、と思ったが、勿論間に合う訳がなかった。