優秀な後輩で私も嬉しく思うので、どうぞ『先輩離れ』してください
 一方、路上に残されたメンバーたちは、遠ざかっていくタクシーのテールランプをどこか意味ありげな表情で見送っていた。赤い光が夜の中へ溶けていくのを誰ともなく目で追いながら、やがて小さな笑いが漏れる。

「…ねえ、今の見た? 一ノ瀬くんのあの足取り」

 佐藤さんが呆れたように肩をすくめながら、カバンをかけ直す。その口元には、面白がるような笑みが浮かんでいた。

「見ました見ました。タクシーに乗る直前、一瞬だけ白石さんを支える手がやけにしっかりしてましたよね」
「完全に演技だろうなぁ、あれ。白石さん、1本取られちゃったな」
「まあ、あんなに有能な男に必死に追いかけられてるんだから、白石さんも幸せ者よ」

 気心の知れた者同士だからこその遠慮のない言葉が、夜気に溶けていく。からかい半分、けれどどこか温かさを含んだその声音には2人を見守るような空気が滲んでいた。

 やがて誰かが歩き出し、それに続くように他の面々も三々五々帰路につく。先ほどまでの喧騒が嘘のように、夜の街はゆるやかな静けさを取り戻していく。

 名残のように残る笑い声が、いつまでも軽やかに響いていた。
 2人の本当の関係がどうであれ、これからのオフィスが今まで以上に少しだけ賑やかになることだけは、誰も疑わなかった。
< 99 / 130 >

この作品をシェア

pagetop