トップアイドルは白衣の天使に恋をする
“行く”

その一言から、どれくらい時間が経ったのか分からないまま。

――ピンポーン。

インターホンの音に、心臓が大きく跳ねる。

ドアを開けると、そこにいたのは陽貴くん。

いつも通りの顔なのに、目だけが少しだけ柔らかくて。

「おつかれさま、紗凪ちゃん」

その一言に、なぜか少しだけ安心する。

「……うん」

小さく頷いて、中へ招き入れる。

リビングに入って、向かい合う。

でも、さっきまでみたいに言葉が出てこない。

ただ、じっと見られて。

「……泣いたでしょ」

やっぱり、すぐバレる。

「……ちょっとだけ」

そう答えた瞬間。

陽貴くんがゆっくり近づいてきた。

逃げる間もなく、ふわっと腕が回る。

「……っ」

優しく、抱きしめられる。

さっき屋上で抱きしめられた時よりも、ずっと柔らかい力。

「頑張ったね」

耳元で、低くて優しい声。

その一言で。

――全部、崩れた。

「……っ」

止まっていたはずの涙が、一気に溢れる。

「ちゃんとやったんだろ」

ぽん、と頭に手が乗る。

ゆっくり撫でられる感触。

「……うん」

声が震える。

「確認もしたし、判断もした」

「……うん……」

「じゃあ、それでいい」

迷いなく言い切られる。

「結果だけで、自分の全部否定すんな」

その言葉が、胸の奥にじんわり広がる。

「……でも、怖い」

気づいたら、口からこぼれていた。

「また同じことあったらって思うと……怖い」

正直な気持ち。

隠せなかった。

すると、抱きしめる腕が少しだけ強くなる。

「そりゃ怖いだろ」

あっさりと肯定される。

「命扱ってんだから」

「……」

「怖いって思えるの、ちゃんと向き合ってる証拠だよ」

優しい声。

「それなくなったら終わり」

少しだけ低くなる。

でも、否定じゃない。

ちゃんと受け止めてくれてる。

「……」

何も言えなくて、ただその胸に顔を埋める。

「でもな」

少しだけ体を離されて、顔を覗き込まれる。

「紗凪ちゃん一人でやってる仕事じゃない」

まっすぐな目。

「周り見ろよ。信じてるやつ、いっぱいいるだろ」

「……うん」

小さく頷くと、ふっと表情が緩む。

「ちゃんと支えられてるんだよ」

その一言に、胸がぎゅっとなる。

「だから、無理に強くならなくていい」

ぽん、ともう一度頭を撫でられる。

「弱いとこも、そのまま持ってて」

「……」

涙がまた滲む。

でも、さっきみたいに苦しい涙じゃない。

「それでも立てるのが紗凪ちゃんだろ」

優しく、でも確信を持った言い方。

逃げ道を作らないけど、ちゃんと信じてくれてる。

「……うん」

今度は、ちゃんと声に出た。

「いい返事」

少しだけ笑う。

その表情を見て、胸の奥がじんわり温かくなる。

「あと」

少しだけ距離を詰めて、額を軽く当てられる。

「今日くらい、甘えとけ」

低くて優しい声。

「無理して元気なフリすんな」

「……」

もう、我慢する理由なんてなかった。

私はもう一度、その胸に身を預けた。
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