トップアイドルは白衣の天使に恋をする
陽貴くんの胸に顔を埋めたまま、ゆっくりと呼吸を整える

さっきまであんなに苦しかったのに

こうしていると、不思議なくらい落ち着く

規則的な鼓動

優しく背中を撫でる手

何も言わなくても、全部包み込まれるみたいで――

「……紗凪ちゃん」

名前を呼ばれる

こんなに近くで

こんなに優しく

「……ん」

小さく返事をするだけで精一杯

顔を上げると、すぐ近くにある視線とぶつかる

まっすぐで、少しだけ熱を帯びた目

その距離に、心臓が大きく跳ねる

……あれ

さっきまでとは違う感覚

胸が、苦しいくらいに締め付けられる

でも、それは怖さじゃなくて

もっと、別の――

「……大丈夫そう?」

少しだけ眉を下げて、覗き込んでくる

その表情が、やけに優しくて

……なんでこんな顔するの

ずるいこんなの

好きになるに決まってる

「……うん」

答えながらも、視線を逸らせない

離れたくない、と思ってしまう

さっきまで“怖い”でいっぱいだったはずなのに

今は、それよりも強く――

この人のそばにいたい

そんな気持ちが浮かぶ

「……ありがと」

自然と、言葉がこぼれる

「……全部」

うまく言葉にできないけど

それで伝わる気がした

すると、少しだけ笑う

「それでいい、甘えるのも大事だよ」

軽く頭を撫でられる

その仕草一つで、また心臓が跳ねる

……やばい

自覚してしまう

もう誤魔化せない

このドキドキも

この安心感も

この人にだけ向いてる感情も

――好きだ

陽貴くんのことが

改めてそう思った

「……どうしたの」

じっと見つめてしまっていたのか、少し不思議そうに聞かれる

「……なんでも…ない」

慌てて視線を逸らす

でも、頬の熱は隠せない

「顔赤いけど」

すぐに気づかれる

「……さっき泣いたから」

苦しい言い訳

「ふーん」

明らかに納得してない声

でも、それ以上は追及してこない

その優しさが、また嬉しくて

…好きだなぁ

と、そう思った
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