トップアイドルは白衣の天使に恋をする
撮影現場に着く

すでに動き始めているスタッフたち

いつも通りの慌ただしさ

でも――

どこか、気持ちは落ち着かない

あと3日……

紗凪の資格会議まで、残り時間

頭の中で、カウントが始まっている

時間がない焦りが、じわじわと広がる

絶対、間に合わせる

強く思った、その時

「陽貴くん、おはよぉ〜♡」

甘ったるい声が、背後から飛んでくる

同時に――

ぐいっと腕に絡みつかれる感覚

「……っ」

一瞬で、現実に引き戻される

視線を落とすと――

花宮胡桃

ぴったりと身体を寄せてくる

距離が近い

そして―強い香水の匂い

まじ勘弁して内心、眉をひそめる

思わず、ほんのわずかに身体を引く

表には出さないように気をつけながら

「おはよう」

淡々と返す

それでも、自然と距離は取る

「ねぇ胡桃ぃ〜、昨日部屋に虫出てぇ〜」

甘えたような声わざとらしく肩に寄りかかってくる

「怖いからぁ、今日一緒に胡桃の家来てくれなぁい?」

……は?

頭大丈夫かこいつ?

一瞬で、答えは出る

行くわけねぇだろ

頭の中で即却下

普通なら、即断る

でも――

その瞬間ふと、昨日のピアスのことが頭をよぎる

林の言葉、蒼依の話、胡桃の違和感

そして、今このタイミング

……待て

思考が止まる

こいつの家……

もし何か、証拠があるとしたら

チャンスかもしれない

確証はない

でも、可能性はある

残りは、あと3日

ここで動かなきゃ、間に合わない

「……分かった」

気づけば、そう答えていた

一瞬、胡桃の表情が固まる

予想外だったのか、目が少し開く

でもすぐに――

「えっ、ほんとぉ?♡」

嬉しそうに笑う

「うれしっ!今日も頑張ろうねぇ♡」

そのままテンション高く、撮影の方へ戻っていく

「……」

その背中を見つめながら、ゆっくり息を吐く

強行突破だけど……

もちろんリスクはある

でもこれしかない

ポケットの中で、拳を軽く握る

紗凪の顔が浮かぶ

「……待ってろ」

誰にも聞こえない声で呟いて

俺は、撮影の現場へと足を踏み入れた
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