トップアイドルは白衣の天使に恋をする

お腹も満たされ、カフェを後にする私たち

「そういえば本探すって言ってなかった?」

そう言われ、私たちは駅前の大きな本屋へ向かっていた。

私は今、救急看護認定看護師の資格取得に向けて勉強を始めている。

仕事だけでも毎日必死なのに、更に勉強なんて正直大変だ。

でも。

もっと知識をつけたい。

もっと患者さんの力になりたい。 

その気持ちはずっと変わらなかった。

「ICUとか救急の本って専門コーナー?」

「たぶんそっちじゃない?」

梓と並んで医療書コーナーへ向かう。

棚には専門書がずらりと並んでいた。

人工呼吸器。

循環管理。

急変対応。

敗血症。

見慣れた単語ばかりなのに、こうして本になると途端に難しそうに見える。

私は気になる本を数冊手に取り、ぱらぱらとページをめくる。

ICUでの循環動態管理。

急変時のアセスメント。

あ、この本分かりやすいかも。

そんなことを考えていた時だった。

『最新曲、絶賛配信中!』

突然、店内モニターから大きな音楽が流れた。

周りの女の子たちが一斉に反応する。

「きゃー!黒騎士!」
「やっぱ陽貴様最高すぎる」
「いやぁ〜私は蒼依推しだわ」

高校生ぐらいの子達がキャピキャピと盛り上がっている

「あ、黒騎士じゃーん!」

梓もすぐモニターを見上げた。

私はつられるように視線を向ける。

黒を基調にした衣装。

激しいダンス。

キラキラした照明。

“ザ・芸能人”という感じの映像。

「へぇ〜……」

“こんな人気な人たちがうちの病院に来るんだなぁ”

その程度にしか思っていなかった。

でも。

センターで歌っている男の人を見た瞬間。

「あれ……?」

妙な違和感を覚えた。

ブラウンの髪。

整った顔立ち。

柔らかそうに笑う目。

……どこかで見たことあるような。

「ん?どうしたの?」

「いや……なんかこの人、見たことある気がして」

私がそう言うと、梓は呆れたように笑った。

「そりゃテレビで見てるんでしょ」

「いや、そうじゃなくて……」

でも思い出せない。

患者さん……ではないよね。

こんな目立つ人、一度見たら忘れない気がするし。

「まぁいっか」

結局答えは出ないまま、私は再び本へ視線を戻した。

その時はまだ知らなかった。



その“見覚えのある人”に、自分の心があんなにも乱されることになるなんて。



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