トップアイドルは白衣の天使に恋をする
…たす…かった…?

力が抜けて、足がガクッと崩れる。

倒れそうになったその瞬間——

「…危ないっ!」

さっきの男の人が、とっさに身体を支えてくれた。

ふわっと、甘い香りに包まれる。

「……っ」

顔を見なくても分かる。

この香り——

忘れるはずがない。

「……佐野…陽貴さん」

そう、私を助けてくれたのは佐野陽貴だった。

「怪我はない?大丈夫?」

低くて優しい声。

その一言で、張り詰めていた糸がぷつりと切れた。

ぽろっ——

涙が溢れる。

怖かった。

本当に、怖かった。

「……っ、大丈夫だから」

震える私を見て、彼はそっと抱き寄せた。

包み込まれるような温もり。

さっきまでの恐怖が嘘みたいに、少しずつほどけていく。

「うっ……ぅ……」

堪えていたものが一気に溢れ出す。

涙が止まらない。

私は彼の胸に顔を埋めたまま、声を押し殺して泣いた。

彼は何も言わず、ただ静かに——

優しく、背中をさすり続けてくれていた。
< 60 / 329 >

この作品をシェア

pagetop