アンコールはリビングで
「……ん……」

凪が身じろぎしたかと思うと、俺の手首をふわりと掴んだ。
そして、その手を自分の頬へと引き寄せた。

「……ん、あれ……みなと……?」

寝ぼけた声。
うっすらと開いた瞳が、ぼんやりと俺を捉える。

「……昨日は、ありがと……」

「……え?」

「ごはん……おいしかったあ……むにゃ……」

普段のしっかり者の凪からは想像もつかない、子供のようなふにゃふにゃの笑顔。

そして彼女は、俺の手のひらに「ちゅ」とリップ音を立ててキスを落とすと、満足そうに再び夢の世界へと戻っていった。

時が止まった。

俺は自分の手のひらを見つめ、カッと全身が沸騰するのを感じた。

(……〜〜っ!! なんだ今の……っ! くそかわいい……っ!!)

不意の無邪気な笑顔。そして手のひらへのキス。

俺は片手で顔を覆い、天を仰いだ。
耳まで熱いのが自分でも分かる。

出かける前に寝顔を見て、少しだけ「充電」して行こうと思っただけだった。
それがまさか、こんな強烈な「過充電(オーバーチャージ)」を食らうとは。

「……行ってきます」

俺は小さな声でそう告げると、逃げるように寝室を出た。

玄関でスニーカーを履き、重いドアを開ける。

まだ外は暗いが、俺の心の中は真夏のように熱かった。
さあ、高尾山でもどこでも行ってやる。

今日の早瀬湊は、無敵だ。
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