アンコールはリビングで
(……ふふっ)

無意識のうちに、俺の喉からは制作中の新曲のメロディが鼻歌となって漏れ出ていた。
アップテンポで、どうしようもなく浮かれたラブソングだ。

「はは、朝から機嫌良いね」

運転席から島崎さんの朗らかな声が飛んできた。

「さては……凪さんの美味い朝ごはんでも食べて来た?」

「……っ」

島崎さんの鋭い指摘に、俺は少し驚いて鼻歌を止めた。

「そうっすかね……? いや、朝メシまだなんすよ……朝のトレーニングしてからプロテイン飲んだだけで。ちなみに凪はまだ寝てますよ」

あくまでクールに、事実だけを淡々と述べる。

だが、脳裏には再び「あの瞬間」がフラッシュバックする。

油断すると、だらしなく口角が吊り上がりそうになるのを、俺は奥歯を噛み締めて必死に抑え込んだ。
ここでニヤけたら、島崎さんに「朝から何があったの?」と追及されるのは目に見えている。

「ポーカーフェイスを保つ」

今、俳優・早瀬湊の演技力の真価が問われている――。

そんな他愛もない攻防を楽しんでいるうちに、車は高速を降り、あっという間に高尾山口付近へと到着した。

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